パキスタン系米国人ギター奏者、レズ・アバシ新譜はスピリチュアル・アコースティック・ジャズ│Musica Terra

パキスタン系米国人ギター奏者、レズ・アバシ新譜はスピリチュアル・アコースティック・ジャズ

Rez Abbasi - Sound Remains

Rez Abbasi 『Sound Remains』

パキスタン出身、米国育ちの熟練のギタリスト/作曲家レズ・アバシ(Rez Abbasi)の新譜『Sound Remains』がリリースされた。今作は国際的に高い評価を受けるレズ・アバシ・アコースティック・カルテット(Rez Abbasi Accoustic Quartet, RAAQ)に、ジョージア生まれのパーカッション奏者ハサン・バクル(Hasan Bakr)を加えた編成となっており、レズ・アバシが全編で弾くスティール弦のアコースティック・ギターと米国出身のビル・ウェア(Bill Ware)のヴィブラフォンをサウンドの中心に据えた、他ではなかなか味わうことの難しいジャズのサウンドを聴かせてくれる逸品だ。

レズ・アバシの17枚目のアルバムとなる今作は2年前に腎臓病で他界した彼の母親に捧げられており、存在感(presence)やマインドフルネス、自我への執着の解消といったテーマを探求。アバシは瞑想を通じて得た内面的な平和を音楽に反映しており、「欲望や条件付けを手放すことで、サウンドだけが残る」と語っている。

アルバムの8曲中、6曲がレズ・アバシのオリジナル。カヴァーは2曲だが、特に意外な選曲は(3)「Questar」だ。これはキース・ジャレット(Keith Jarrett)のヨーロピアン・カルテットでの名盤『My Song』(1978年)の収録曲で、あまりカヴァーされることのない曲だが、こうして聴いてみるとやはり独特の浮遊感や爽やかさが美しい名曲だと思う。今作で新たにパーカッション奏者のハサン・バクルが加わっていることについてアバシは「アコースティック・グループの親密さを取り戻し、パーカッションによる新たなエッジを加えたかった」と語っており、そのインスピレーション源としてハサン・バクルの師の一人でありキース・ジャレットと共に活動した打楽器奏者ギジェルモ・フランコ(Guillermo Franco)の存在を挙げている。

(3)「Questar」

もうひとつのカヴァーはジョン・コルトレーン(John Coltrane)の著名な曲(6)「Lonnie’s Lament」。特徴的なのはやはりハサン・バクルによるパーカッションで、ガラ=ギーチー1由来のスピリチュアルなエッセンスが注入されている。

Rez Abbasi 略歴

レズ・アバシは1965年にパキスタン最大の都市カラチに生まれ、アメリカ合衆国で育ったジャズギタリスト/作曲家/プロデューサー。幼少期にロサンゼルスに移住し、南カリフォルニア大学とマンハッタン音楽学校で学び、1989年に卒業。その後数か月間インドに滞在し、アラ・ラカ(Alla Rakha)に師事しタブラを学ぶなどインドとパキスタンの文化に深く傾倒した。

1993年に自主制作の『Rez Abbasi』でデビュー。ピーター・アースキン(Peter Erskine)、ケニー・ワーナー(Kenny Werner)、ルドレシュ・マハンサッパ(Rudresh Mahanthappa)らと共演し、南アジアの音楽とジャズを融合させた独自のスタイルで知られるようになった。

スティール弦アコースティックギターやフレットレスギターを用い、鋭く明瞭な音色でモダンジャズの新たな地平を開拓。2021年にはグッゲンハイム・フェロー2に選出され、ジャズ界での評価を確立した。代表作に『Suno Suno』(2011年)、『Intents and Purposes』(2015年)、『Sound Remains』(2025年)などがあり、特にレズ・アバシ・アコースティック・カルテット(RAAQ)での活動は高い評価を受ける。妻でインド出身のシタール奏者であるキラン・アルワリア(Kiran Ahluwalia)とのコラボレーションも多く、文化的対話を音楽に反映。瞑想やマインドフルネスをテーマに、スピリチュアルな深みを追求している。

Rez Abbasi – acoustic guitars
Bill Ware – vibraphone
Stephan Crump – acoustic bass
Eric McPherson – drums
Hasan Bakr – percussion

  1. ガラ=ギーチー(Gullah-Geechee)…アメリカ合衆国サウスカロライナ州とジョージア州の沿岸地域に居住するアフリカ系アメリカ人のコミュニティ。彼らは西アフリカからの奴隷貿易を通じてこの地域に移住した人々の子孫で、独自の言語(ガラ語)、音楽、料理、伝統を保持している。ガラ=ギーチー文化は、アフリカの文化的要素とアメリカ南部の影響が融合したもので、スピリチュアルなリズムやコール・アンド・レスポンスの音楽形式が特徴的。 ↩︎
  2. グッゲンハイム・フェロー(Guggenheim Fellowships)…1925年に創設されたジョン・サイモン・グッゲンハイム記念財団が、「芸術における、助成金を受けるのにふさわしい優れた能力を実証した、あるいは、卓越した創造力を発揮した」人々に授与している助成金。  ↩︎

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