『Saga』:名手ヤマンドゥ・コスタが室内楽アンサンブルで紡ぐラテンアメリカの音楽叙事詩

Yamandu Costa - Saga

ヤマンドゥ・コスタ&マルティン・スエドのコラボ集大成的傑作

ブラジルの7弦ギターの名手ヤマンドゥ・コスタ(Yamandu Costa)の新作は、アルゼンチンのバンドネオン奏者マルティン・スエド(Martin Sued)が率いるアンサンブルであるオルケストラ・アッシントマティカ(Orquestra Assintomática)とのコラボレーション・アルバム『Saga』だ。ブラジルやアルゼンチンを中心とした様々な南米音楽、それにジャズ、クラシックといった音楽の境界を易々と超え、自由に新しい音楽を紡いでゆく、豊かなスケールの作品となっている。

すべてヤマンドゥ・コスタの作曲で、アレンジやオーケストレーションをマルティン・スエドが手がけている。

アルバムのタイトル曲である冒頭の(1)「Saga」のイントロから、既に名作の予感が漂う。左手と右手を巧みに組み合わせひとつのフレーズを奏でるバンドネオンの魅力的な定型フレーズ、ソロにバッキングにと縦横無尽に動きながらアンサンブルを牽引するヤマンドゥの7弦、それらを支えるオルケストラ・アッシントマティカの演奏も整っていながら迫力があり素晴らしい。タイトルの「Saga」(サーガ)は長大な物語や叙事詩を表す古アイスランド語由来の言葉だが、その名に恥じぬ素晴らしい楽曲だ。

(1)「Saga」

(3)「Spiaggiare」も楽しい曲だ。流れるような抒情的で美しいメロディーと、簡素なナチュラルホルンの賑やかしに彩られた軽やかな裏打ちのリズムが交互に訪れ、楽しい気分を盛り上げてくれる。タイトルはイタリア語で「浜辺に漂着」「打ち上げられる」といった意味で、海辺での物語を表現しているようだ。

(3)「Spiaggiare」

オルケストラ・アッシントマティカは2019年にポルトガルに移住したマルティン・スエドが2020年に結成したグループで、メンバーの国籍もポルトガル、ブラジル、アルゼンチン、イタリア、ウルグアイと多様だ。今作もブラジルのショーロ、アルゼンチンのタンゴやチャマメ、ウルグアイのカンドンベ、さらにはこれらの地域にまたがるミロンガなど多様な音楽性を楽しむことができる。

(4)「Candombe Cambá」はウルグアイのカンドンベからインスピレーションを得ている。ここではウルグアイ出身の打楽器奏者サンティアゴ・デルガド・スセーナ(Santiago Delgado Susena)がカンドンベの太鼓を叩き、アンサンブルに野趣を加えている。

(4)「Candombe Cambá」

(6)「Suíte Ameríndia」(アメリカ先住民組曲)は14分に及ぶ大作で、3つの楽章から構成されている。第1楽章はキューバ文化へのオマージュ、第2楽章はより中央アメリカへと向かい、第3楽章はアルゼンチン海岸へのオマージュとなっており、南米とカリブ海の融合を豊かな情景で描き出す。

編成を拡張して演奏される壮大な組曲(6)「Suíte Ameríndia」

ラストの(7)「Tainá」は可愛らしいメロディーが特徴的だ。これはヤマンドゥに「優しさを教えてくれた」というある少女のために書かれた曲で、深い愛情が伝わってくる。タイトルの「タイナー」とはヤマンドゥのルーツであるトゥピ・グアラニー文化における一般的な女性の名前であり、この曲も彼の故郷の雄大な自然や人々の温情、豊穣な文化を象徴的に描いている。

(7)「Tainá」

プロフィール

1980年生まれのギタリスト、ヤマンドゥ・コスタ(Yamandu Costa)はすでにブラジル器楽界の巨匠として知られており、日本のNHK BSプレミアムでも特集番組が組まれるほどの世界的な人気を誇る。ショーロやサンバといったブラジルの音楽のほかにアルゼンチンやウルグアイの音楽も取り入れた7弦ギターでの演奏は、数多の名手が蠢くブラジルのギター界でも抜群の存在感を示している。

1983年ブエノスアイレス生まれのマルティン・スエド(Martin Sued)は現代のアルゼンチン・タンゴ演奏者で最高のひとりと目されている。伝統的なタンゴから、アストル・ピアソラが築いたモダンなスタイルまでも踏襲したバンドネオンが特徴的で、2017年に『Iralidad』で待望のソロデビューを果たした。
2019年にポルトガルに移住し、オルケストラ・アッシントマティカを結成。
ヤマンドゥ・コスタとは2020年のデュオ作『Visita Boa』などでも共演している。

Yamandu Costa – 7-string guitar
Martín Sued – bandoneon
Gustavo Cabrera – violin
Sandra Martins – cello
Francesco Valente – contrabass
Franco Dall’amore – electric guitar
Piano: Ariel Rodriguez – piano

Santiago Delgado Susena – percussion (4)
Denys Stetsenko – violin (6)
João Silva – violin (6)
Marian Yanchik – violin (6)
Jennifer Davila – violin (6)
Diogo Duqe – trumpet, flute (6)
Nazaré Pinto Leite – oboe (6)
Gonçalo Pereira – bassoon (6)

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