モザンビークの芸術家、Lenna Bahule 新作『Kumlango』
モザンビーク出身の歌手/作曲家/芸術活動家レナ・バウレ(Lenna Bahule)の新作『Kumlango』は、モザンビークやアフリカ南部の伝統音楽に由来する打楽器などによる優れたリズムに、効果的なエレクトロニック、そして広い音域を持つ彼女の柔らかく美しい声が融合するサウンドスケープが印象的な素晴らしいアルバムだ。国際的なミュージシャンも複数参加し、モザンビークを代表する芸術家として知られつつある彼女の活躍の舞台を世界に広げる。
アルバムのタイトルはヤオ語1でポータル(入り口)の意味。2024年から段階的にリリースされてきた3部構成のEP(『Kwisa』『Nadawi』『Mate』)の完成版としてリリースされたもので、深淵な物語性を感じさせるものとなっている。楽曲は複数のアフリカの言語やレユニオンのクレオール語、インドのカンナダ語、さらにはレナ・バウレが創造した架空の言語も用いられ、言語の枠を超えた表現が特徴的。
アルバムは“人生のサイクル”をテーマとし、無知から悟りへ、日常から神秘へと旅する魂の物語を描いている。(3)「Nyamussorro」や(5)「Kuphura Kuphika」など、序盤からそのリズムの豊かさには驚かされるばかりだ。
複雑なポリリズムと美しいコーラスが印象的な(6)「Ngalila Sofê」にはレユニオン出身の歌手メラニー・ブーリレ(Melanie Bourire)が参加。多層的に重なる楽器や声が複雑な色彩感覚を呼び起こす。
(9)「Sande Kani」にはインドの歌手ヴァリジャシュリー・ヴェヌゴパル(Varijashree Venugopal)がゲスト参加。落ち着いたリズムに乗せて、二人の歌唱は魂と自然が一体になるような神秘的な音楽体験をもたらしてくれる。
アルバムの各楽曲は一連の流れがあり、ひとつの壮大な物語を形作る。
今作は、アフリカの伝統を尊重しつつ独自の表現を探求するレナ・バウレというアーティストを強く印象付ける傑作といえるだろう。
Lenna Bahule プロフィール
レナ・バウレはモザンビーク出身の歌手/作曲家/芸術教育者/文化的活動家。1989年にモザンビークの首都マプトで生まれ、幼少期から同国の伝統音楽に親しみ、教会の聖歌隊や地元の音楽グループで活動を始める。
公用語であるポルトガル語のほか、ヤオ語、シトゥワ語、チョペ語などの現地言語を流暢に話し、音楽に多言語を取り入れることで知られている。2012年にブラジルに移住し、7年間サンパウロを拠点に活動。ブラジルの音楽シーンでヴォーカルと身体表現を深め、即興音楽やアフロ・フューチャリズムの要素を作品に融合させる。
2016年にデビューアルバム『Nômade』をリリースし、ブラジルのトップ100アルバムに選出。2019年にモザンビークへ帰国後、文化的プロジェクトやワークショップ「BatuCorpo」を通じて、身体音楽や即興表現をコミュニティに広めた。2025年にリリースしたアルバム『Kumlango』では、モザンビークの伝統と現代的なサウンドを組み合わせた。
彼女はこれまでにヴァリジャシュリー・ヴェヌゴパル(Varijashree Venugopal, インド)、メラニー・ブーリレ(Melanie Bourire, レユニオン)、ヴァージニア・ロドリゲス(Virginia Rodrigues, ブラジル)、ム・ムバナ(Mû Mbana, ギニアビサウ)、パウロ・フローレス(Paulo Flores, アンゴラ)、スチュワート・スクマ(Stewart Sukuma, モザンビーク)といった国際的なアーティストを共演をしてきている。
受賞歴としては2019年のMozal Arts and Culture Awardや2024年のPrince Claus Seed Awardがある。現在はマプトを拠点に、音楽、ワークショップ、文化的交流を通じてアフロ文化の継承と革新に取り組んでおり、芸術教育者としてグループでの歌唱、ボディ・ミュージック、モザンビークの先住民族のポピュラー音楽のレパートリーに関連するコースを指導している。
- ヤオ語(Yao)…バントゥー語群に属する言語。主にバントゥー系の部族であるヤオ族の人々によって話され、話者数はマラウイに約100万人、タンザニアに約50万人、モザンビークに約45万人いる。 ↩︎