タイナー(Tainá)新作『Âmbar』
ブラジル北部パラー州の先住民族の家系出身のシンガーソングライター、タイナー(Tainá)の2作目となるアルバム『Âmbar』。ボサノヴァを基調とした柔らかなリズム、愛情、孤独、郷愁、憧れ、欲望といった誰もが抱く普遍的な感情をありのままに表現する自然で巧みなソングライティング、そして飾らない美しさを湛えた歌声と、ブラジルの豊かな音楽文化を象徴しつつも幅広いリスナーに訴求できる親しみやすい要素を兼ね備えた傑作だ。
アルバムのタイトル『Âmbar』はポルトガル語で「琥珀」を意味し、長い時間の中で美しく保存された自然、記憶、感情の象徴として解釈できる。収録された全11曲は一部の共作曲を除きすべてタイナーの作詞作曲で、彼女の個人的な内省や愛情、自然とのつながり、ブラジルの文化的アイデンティティをテーマにしている。
彼女の曲はどこまでもメロディアスで、その美しいコード進行とも相まって普遍的な感情を呼び起こす。とりわけ(4)「Nordestino」や(6)「Mãe」などはその好例として強調したいが、それ以外にも優れた曲ばかりが収められている。歌を中心とした作品だが、バックのタイナー自身で弾くヴィオラォン(ガットギター)を中心に、ピアノ、パーカッションといった丁寧なアコースティック・アンサンブルも良い。
ゲストとしてブラジルにルーツを持つポルトガルの男性シンガー、チアゴ・ナカラト(Tiago Nacarato)が(10)「Vaga-Lumes」に、そしてブラジルの女性シンガー、ロベルタ・カンポス(Roberta Campos)が(11)「Sol」に参加している。
Tainá 略歴
タイナーはブラジル・パラー州ノヴァ・マラバ(Nova Marabá)出身のシンガーソングライター。先住民族の家系に生まれ育ち、ブラジルの様々な場所で暮らす中で、多様な文化に適応する術や自然との共存といった価値観を育んでいった。また、「私の真の故郷は音楽」と述べるほど幼少期から音楽に親しみ、ギターやピアノを演奏しながら作詞や作曲を始めた。
2010年代に音楽活動を始め、地元の音楽シーンでインディーズ・アーティストとしてキャリアをスタート。ポルトガル・リスボンのビカでノルウェーのデュオ、キングス・オブ・コンビニエンス(Kings of Convenience)のアーランド・オイエ(Erlend Øye)と偶然に出会い、彼はタイナーが歌うボサノヴァの名曲「Corcovado」を聴いたことで感銘を受け、自身のポルトガル公演のステージに彼女を招待。このことがきっかけとなったタイナーは活躍の場を広げ、2019年に初のアルバム『Tainá』をリリースし話題となり、シングル「Sonhos」はポルトガルの年次音楽賞『PLAY – Portuguese Music Awards』でルゾフォニア賞を受賞した。