アウトサイダー・ジャズ daoud、「ok」という言葉の裏に潜む不安や葛藤を描いたメジャーデビュー作

daoud - ok

フランスのトランペット奏者daoud新譜『ok』

長年作曲家やサイドマンとして音楽の舞台裏で活動してきたトランペッター、ダウド(daoud)。この少しやさぐれた雰囲気を持つ魅力的な芸術家は2024年にアルバム『GOOD BOY』でデビューし、その刺激的で反骨精神に溢れた音楽は大いに注目され、TSF Jazz誌によって年間最優秀アルバムの一つに選ばれるなど成功を収めた。そんな彼が、ドイツの名門レーベルであるACTに移籍し、早くも2作目のアルバム『ok』をリリースした。

今作でも、ダウドはACTのレーベルカラーに染まらず、自身のスタイルを崩さずに思う存分表現をしているようだ。ジャズを基調に、ヒップホップ、R&B、エレクトロニック、そして北アフリカの音楽を自然と取り込み、彼らしいユーモアと皮肉をスパイスに効かせ、大胆に調理をしている。
「このレコード全体は、自分でコントロールできないものを渋々受け入れるというコンセプトに基づいて作られている。よし、どうでもいい、いいか、って感じだ」と彼は語る。失敗も喪失も反復も、すべてがうまくいっているかのように見せかけて生きることの柔らかな不条理について、ユーモラスに探求をする。

(1)「dijon」のMV。静かに、ダウドの頭髪が剃られていく

MVの彼の表情は、すでに諦観の境地のようだ。「ok」とは言っているものの、実際には内心で不安や葛藤を抱え、まったく大丈夫ではない人間の状態だ。このテーマが、アルバム全体を通じて軽快さと重厚さ、ユーモアとメランコリー、誠実さと皮肉といった対比によって表現されている。現代社会では次々と受け入れ難い出来事が降り注ぐが、すべてを受容し──あるいは諦め──「ok」と言うしかない社会への強烈なアンチテーゼのようにも思える。

ジャケットには、ダウド自身の無邪気な幼少期の写真が採用されている。この矛盾を孕んだユーモアも、彼なりの「ok」の体現なのだろう。

抵抗なきダウドが、殴られ、タックルされ… (3)「la fièvre」

(3)「la fièvre」にはモロッコ出身のゲンブリ奏者メディ・ナッスーリ(Mehdi Nassouli)がゲスト参加。グナワ音楽を取り入れ、恍惚のリズムを繰り広げる。

(9)「soda」にはテナーサックス奏者ジュリアン・フィリオン(Julien Fillion)が参加

ダウドとトランペットの出会いは、彼が3歳の頃だった。
「3歳くらいの頃から、サーカスのピエロになりたいという夢に取り憑かれていたんです」と彼は振り返る。「テレビか何かでピエロがトランペットを吹いているのを見て、ピエロが演奏する楽器はこれだと思ったんだ。それでトランペットを選んだ。クラシック音楽への憧れからではなく、その不条理な芝居がかった雰囲気に惹かれたんです」 道化師が悲劇を滑稽さで表現する様子は、それ以来ダウドと音楽の関係を決定づけてきた。

しかし、その道は決して平坦ではなかった。
何度か試みたクラシックやジャズのレッスンに馴染めなかった彼は、音楽から距離を置き、世界を放浪するようになった。ピザの配達や葬儀屋の仕事をし、フットボールやボクシングに熱心に打ち込んだ。音楽を完全に手放した時期も一度や二度ではなかった。「音楽が自分にとってあまりに大きな存在だったからこそ、それなしで生きられると証明したかったんだ」

だが、それでも最終的に、彼は自らの意志で音楽の世界に戻った。作曲、ビートメイク、トランペット、エンジニアリングといった必要なすべてをインターネットを通じて独学で学んだ。2024年にセルフプロデュースしたデビューアルバム『GOOD BOY』は、わずか3日間でレコーディングされたが、そのエモーショナルな力強さとジャンルを超越した明晰さで瞬く間に注目を集めた。それ以来、ダウドはポップスやヒップホップのアーティストへのプロデュースや楽曲提供を行いながら、自身の唯一無二の声を磨き続けている。

daoud – trumpet, flugelhorn, synthesizers, ondes Martenot
Silvan Strauss – drums, percussions
Louis Navarro – double bass
Leo Colman – synthesizers, piano, Fender Rhodes
Jules Minck – synthesizers, electric bass, electric guitar
Quentin Braine – additional percussions
Kuz – additional keyboards, sound design, additional production

Special Guests : 
corto.alto – trombone
Mehdi Nassouli – guembri
Charlie Burg – tenor saxophone
Teis Semey – electric guitar
Kuba Więcek – alto saxophone
Julien Fillion – tenor saxophone
Ludivine Issambourg – flutes
Rosie Frater-Taylor – vocals, electric guitar

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