ブラジルのSSWナイ・ポルテーラ、新譜『Alvorada』
ブラジルのシンガーソングライター、ナイ・ポルテーラ(Nay Porttela)の5枚目のアルバム『Alvorada』。2020年にデビューし、カヴァー曲中心の初期2作、さらにオリジナル曲中心の2作を経て彼女の作風は洗練を極め、今作も落ち着いたアコースティックのボサノヴァを基調に「夜明け(Alvorada)」のタイトルの通り、喧騒の現代生活の中にいっときの安らぎを与えてくれるような素敵なアルバムとなっている。
今作は“まるでトム・ジョビンと坂本龍一が瞑想の午後に出会ったかのよう”と評された(1)「Doce 甘い」で幕をあける。この曲ではゲストに日本のSSW優河(Yuga)を迎え、ナイ・ポルトーラが歌うポルトガル語詞と、優河が歌う日本語詞が美しく交差する。所謂“足るを知る”の具現のようなミニマルなサンバは、遠く離れたブラジルと日本で共通する繊細な美的感覚の表れだ。
“夏なき冬”を意味する(2)「Inverno Sem Verão」では、失恋の痛みを過剰にドラマチックにせず、淡々と繊細に表現。
アルバム全般でヴィオラォン(ガットギター)を弾くのはルシアーノ・ポルテーラ(Luciano Portela)。
(5)「Rio」はこのアルバムのコンセプトをもっとも的確に表現した曲で、ルシアーノのヴィオラォンと、名手マルコ・ダ・コスタ(Marco da Costa)のミニマルなドラムスが夜明け前の情景を見事に再現。適度なエレクトリックの使用も効果的だ。
ラストの(8)「Amanhecer」はアコースティック・ギター、ピアノ、ヴィブラフォン、シンセなどによる穏やかなインストゥルメンタル。ポルトガル語で「Alvorada」、「Amanhecer」のどちらも“夜明け, 日の出”の意味だが、アルバムタイトルに採用され、より詩的・文学的なニュアンスをもった前者と比べ、楽曲タイトルに採用された後者はより日常的なニュアンスを持つ。“夜明けの終わり”の寂情を表現するためのこの言葉選びも、彼女の非凡なセンスの表れであろう。
今作において、ナイ・ポルテーラはプロジェクトのヴィジュアル・リハーサルで使用されたすべての衣装もデザインし、自身のファッションデザイナーとしての才能も発揮した。
「私にとって、ファッションは常にコミュニケーションと自己表現の手段でした。ショーの衣装はすべて自分でモデルを作り、裁断し、縫製することで、音楽を超えた体験をヴィジュアルを通して伝えるのです」と語るとおり、音楽と緻密に結びついたヴィジュアル・イメージで自身の世界観をより個性的で確固たるものにしている。
Nay Porttela プロフィール
ナイ・ポルテーラはブラジル・ゴイアス州ゴイアニア出身のシンガーソングライター/ファッションデザイナー。MPB、ボサノヴァ、サンバ、ジャズを基盤に、現代的で国際的な感性を融合させた音楽性を特長とする。5歳から音楽に親しみ、ゴイアス連邦大学でファッションデザインを学んだ後、音楽とファッションを融合した独自の表現を追求。カヴァー曲を中心とした2作のアルバムを経て、2023年の『Viradela』で初のオリジナルアルバムをリリース。2024年の『Garoa』、2025年の『Alvorada』では、ボサノヴァやジャズに日本やブラジル内陸部の音楽要素を取り入れ、文化的多様性を体現。ゴイアス州のユネスコ世界遺産でのビジュアル撮影でも注目を集めた。
2026年にはカエターノ・ヴェローゾの楽曲解釈など、新プロジェクトを計画中。