米国の打楽器奏者マイケル・ウォルドロップのピアノトリオ+α
米国のドラマー/作曲家マイケル・ウォルドロップ(Michael Waldrop)の新作『Native Son』は、ピアノトリオ+パーカッションを中心とした編成でバルカン半島や中東、南米の音楽文化を積極的に取り入れた作品となっており、従来の彼の活動の主軸であったビッグバンドのイメージを覆す作風に驚かされるアルバムだ。
音楽の中心を担うのはセルビアのピアニスト、ヴァジル・ハジマノフ(Vasil Hadžimanov)と、マケドニアのベース奏者マルティン・ジャコノフスキ(Martin Gjakonovski)とのトリオだ。マイケル・ウォルドロップは、妻の実家を訪れるために毎年セルビアに行っており、そこで現地のジャズシーンに触れ、現地のピアニストであるヴァシル・ハジマノフの演奏に感銘を受けたのだという。この出会いが今作のきっかけとなり、彼らは2022年のパンデミック中にリモートでコラボレーションを開始。2024年8月、セルビアのベオグラード近郊パンチェヴォのスタジオで本格的なレコーディングが行われた。
今作を聴くとすぐに、彼らの音楽には多様な音楽的背景があることがわかる。アフロ・ブラジル音楽に影響された(1)「Native Son」、ブラジルの偉大な打楽器奏者ナナ・ヴァスコンセロス(Naná Vasconcelos, 1944 – 2016)への敬愛を示す(2)「Vasconcelos」。
古代ギリシャのデルポイの神託をイメージした神秘的な(3)「Pythia: The Speaking Water」、2001年にウォルドロップがベオグラードで作曲したセルビアの街をイメージした(5)「Belgrade (Београд)」、1996年にミュンヘンで書かれたバラードで、ビル・エヴァンスやハービー・ハンコックからの影響を感じさせる繊細な曲(7)「Still Life」など、今作に収録された楽曲群はそれぞれが美しく、映像的な情景を呼び起こす。
Michael Waldrop 略歴
マイケル・ウォルドロップは1961年アメリカ合衆国フロリダ州生まれのジャズドラマー/作曲家/教育者であり、多様な音楽的背景と国際的なコラボレーションで知られる。
ラジオから流れるポピュラー音楽にあわせてドラムを叩く真似をするという才能を示したため、4歳の時に両親に小さなドラムセットを買ってもらった。
1970年にニューヨークに転居後、1974年に伝説的ジャズドラマー、バディ・リッチ(Buddy Rich, 1917 – 1987)の音楽に出会い、大きな感銘を受けた。その後ドラムスやマリンバ、ビブラフォンなど打楽器全般を学び、17歳までにプロのドラマーとなった。
その後はビッグバンドからピアノトリオまで幅広い編成で演奏。サイドマンとしてはスタンリー・クラーク(Stanley Clarke, 1951 – )やパット・メシーニ(Pat Metheny, 1954 – )、ランディ・ブレッカー(Randy Brecker, 1945 – )のプロジェクトに参加するなど、国際的なジャズシーンで評価を得た。
2002年にピアノトリオを率いて初のリーダー作『Triangularity』をリリースしたが、彼の名声を一気に高めたのはそれから10年以上を経てビッグバンドで録音したセカンド・アルバムの『Time Within Itself』(2015年)と3rd『Origin Suite』(2018年)だった。これらはダウンビート、ジャズ・ジャーナル、IAJRCジャーナルをはじめとする多くの定期刊行物で国際的にレビューされ、ラジオのエアプレイ・チャートでも上位にランクインした。
Vasil Hadžimanov – piano
Martin Gjakonovski – double bass (1, 2, 3, 4, 6, 7, 8)
Michael Waldrop – drums
Guests :
Brad Dutz – percussion (1, 2, 3, 5, 6, 7)
Jose Rossy – percussion (1, 2, 3)
Chris Symer – double bass (5)