サックス奏者ジェームス・ブランドン・ルイス新譜『Apple Cores』
米国のテナーサックス奏者、ジェームス・ブランドン・ルイス(James Brandon Lewis)が自身のトリオによる新作『Apple Cores』をリリース。編成は彼のサックスと、ドラムス/ムビラを担当するチャド・テイラー(Chad Taylor)、主にベースを担当するジョシュ・ワーナー(Josh Werner)というメンバーで、ファンクやスピリチュアル・ジャズを中心に、アフリカへの望郷を感じさせる硬派で力強い作品となっている。
タイトルの「林檎の芯」は、詩人でジャズ理論家のアミリ・バラカ(Amiri Baraka, 1934 – 2014)が1960年代にダウンビート誌で連載したコラムの名前から着想を得ている。このコラムは、ジャズの新潮流や黒人文化の政治性を記録したもので、黒人文化史において強い響きを持っていた。タイトル「Apple Cores」はメタファーとして機能しており、ニューヨーク市のニックネームである「Big Apple」の「cores」(芯)を指すと解釈できる。つまり、現代のジャズシーンの中心や本質、つまり文化の核心を象徴するものだ。ルイス自身は今作をアミリ・バラカへのリスペクトを表しつつ、主にトランペッターのドン・チェリー(Don Cherry, 1936 – 1995)へのオマージュとしても位置づけ、即興演奏を通じてジャズの“核心”を探求している。
アルバム収録曲はオーネット・コールマン(Ornette Coleman, 1930 – 2015)の(7)「Broken Shadows」を除き、すべてトリオのオリジナル。コンポージングは即興の余地を多く残したものだが、ムビラがフィーチュアされ、ポリリズムを強調する(2)「Prince Eugene」に代表されるようにミニマルな中でいかに工夫しジャズとして表現するか、という知的な遊び心を感じられるものとなっている。
James Brandon Lewis プロフィール
ジェームス・ブランドン・ルイスは1983年8月13日、ニューヨーク州バッファローで生まれたアメリカの作曲家/サクソフォン奏者。幼少期から教会で育ち、音楽に親しんだ。ワシントンD.C.にある全米屈指の名門歴史的黒人大学であるハワード大学で音楽の学士号を取得した後、カリフォルニア芸術大学で修士号を修得した。
自らを“探求者で古い魂”と称する彼は、ジャズの伝統を尊重しつつ、現代的なアプローチを追求する。キャリアの始まりは2010年代初頭。デビューアルバム『Moments』(2010年)を皮切りに、数多くの作品をリリース。ジャズのルーツにヒップホップやファンクの要素を融合させた革新的なスタイルで注目を集め、代表作には『Divine Travels』(2014年)、『An UnRuly Manifesto』(2019年)などがある。特に、『Jesup Wagon』(2021年)はJazzTimesの年間最優秀アルバム賞を受賞し、彼の名を一躍高めた。2023年の『Eye Of I』はアンタイ・レコード(Anti- Records)からのデビュー作で、The Guardianから「今日のジャズで最も激しいサウンドのひとつ」と評された。
彼のの演奏は、テナーサックスの力強いトーンが特徴だ。ジョン・コルトレーン(John Coltrane)やソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)の影響を受けつつ、自由即興やスピリチュアル・ジャズを基調とする。これまでにも多様なコラボレーションを展開し、インスト・ロックバンドのThe Messthetics、トランペット奏者のデイヴ・ダグラス(Dave Douglas)、前衛音楽家のチェス・スミス(Ches Smith)らと共演をしてきた。メディアからも高い評価を得ており、2020年にはDownBeatのRising Star Tenor Saxophonistに選ばれている。
James Brandon Lewis Trio :
James Brandon Lewis – tenor saxophone
Chad Taylor – drums, mbira
Josh Werner – bass, guitar