古典的で硬派なイスラエル・ジャズ新譜、『Summit』
イスラエル出身、ニューヨークを拠点に活動するギタリスト/作曲家のナダフ・レメズ(Nadav Remez)のアルバム『Summit』は、イスラエルとアメリカの幅広い年代のメンバーからなるクインテットで硬派な”イスラエル・ジャズ”を聴かせてくれる好盤だ。
バンドは1997年イスラエル生まれのドラマー ダヴィド・シルキス(David Sirkis)、1996年イスラエル生まれのピアニスト ガイ・モスコヴィッチ(Guy Moskovich)、1991年アメリカ生まれのベース奏者ベン・ティべリロ(Ben Tiberio)といった若手を核に、1984年生まれのナダフ・レメズ、そして1966年アメリカ生まれのベテランのサックス奏者グレゴリー・タルディ(Gregory Tardy)という顔ぶれ。
収録の12曲はほとんどがナダフ・レメズが長年書き溜めてきたオリジナルだが、彼のルーツであるユダヤの曲の再解釈も3曲含まれており、それらがこのアルバムを一層特色のあるものにしている。その3曲──100年前の農業労働歌の(2)「Shedemati」、ノーム・シェリフ(Noam Sheriff, 1935 – 2018)作の(8)「Hinach Yaffa Raayati」、伝統的なユダヤの祈りの歌である(11)「Adon Olam」──は今作の中でもとりわけ異色の印象を受けるだろう。
ナダフ・レメズは、数多くのジャズ・アーティストを輩出するイスラエルの名門テルマ・イェリン芸術高校で学び、その後米国のバークリー音楽大学とニューイングランド音楽院で学位を取得後、ニューヨークを拠点に活動を続けている。これまでにタイショーン・ソーリー(Tyshawn Sorey)やアントニン=トリ・ホアン(Antonin-Tri Hoang)とのコラボレーションや、インディーロックバンド「Fishes」での活動を通じて多様な経験を積んできた。今作『Summit』はこれらの影響を反映しつつ、彼の人生の異なる段階で書かれた曲を集めたものとなっている。例えば、パンデミック時の内省や、古代エジプトやギリシャからのインスピレーション、敬愛する叔父へのオマージュなどが含まれている。
中には10年以上ライヴで演奏されてきた曲もあり、磨き続けてきた彼の音楽の芸術的集大成と言える内容だ。多くの曲は5〜8分の長尺で、確立されたテーマがありつつも即興の余白も多く残し各々の自由な解釈でのプレイも特徴的。
約20年にわたるキャリアの蓄積を基に制作された今作は、NYの現代ジャズ、ユダヤのルーツ、インディーロックの要素、そしてシネマティックなストーリーテリングを交えた情熱的な彼の長い旅の成果だ。
Nadav Remez – guitar
Gregory Tardy – saxophone, clarinet
Guy Moskovich – piano
Ben Tiberio – double bass
David Sirkis – drums