巨匠ピアノ奏者ファビオ・トーレスと、新世代ドラム奏者カイナン・メンドンサのデュオが贈る注目作

Fábio Torres & Cainã Mendonça - Derivas

世代を超えたブラジリアン・ジャズ・セッション 『Derivas』

ブラジルのベテラン・ピアニスト、ファビオ・トーレス(Fábio Torres)と、若手ドラマーのカイナン・メンドンサ(Cainã Mendonça)のデュオによる『Derivas』は、軽やかなブラジリアン・ジャズに魅了される良作だ。アルバムには7曲が収録されており、全曲が二人のオリジナル。

サンバなどを取り入れたブラジルのジャズを中心に、ノルデスチの伝統的なリズム、ベネズエラのリズムといった要素も取り入れた即興演奏が特徴で、豊かなハーモニーと情熱的なインタープレイが魅力的だ。幕開けとなる(1)「Viva Todo Mundo」はカイナン・メンドンサの作曲で、彼のエネルギーに満ちたドラミングと、ファビオ・トーレスの流麗なピアノが豊かに絡み合い、その明るい曲調も相まって実に素晴らしい。リズムはベネズエラの伝統音楽「メレンゲ1」に由来する5/8拍子だが、変拍子感はほとんど感じさせない。

(2)「Baião de Salomão」はブラジル北東部(ノルデスチ)の「バイアォン2」にインスパイアされた曲。ファビオ・トーレス作曲の明るい曲で、ハイライトは15/8拍子のリズムの上で展開されるカイナン・メンドンサの圧巻のドラムソロだろう。

(3)「Encrenca」

力強さと繊細さを併せ持った(4)「Venezuelana nº2」はファビオ・トーレス作曲。民族音楽風のハーモニーやリズムをベースとしつつも洗練されたジャズが展開される。

(4)「Venezuelana nº2」

グラミー賞やラテン・グラミー賞を受賞したトリオ・コヘンチ(Trio Corrente)のピアニストとして知られるファビオ・トーレスは、カイナン・メンドンサが13歳の頃からピアノやドラムを自在に操る才能として注目していたという。カイナンが19歳のとき、ファビオは青年の目覚ましい進化に感銘を受け、このコラボレーションが実現。
今作は世代を超えた音楽愛と創造性から生まれた、境界のない自由なジャズだ。

Fabio Torres – piano
Cainã Mendonça – drums

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  1. メレンゲ(merengue)…19世紀半ばにベネズエラの首都カラカスで流行した、5/8拍子を基本とするアフロ・ヨーロッパ系のダンス音楽。20世紀半ばまでベネズエラの国民的な音楽であった。なお、ドミニカ発祥の同名の音楽スタイルとは別物。 ↩︎
  2. バイアォン(baião)…ブラジル北東部(ノルデスチ)を代表する民族音楽でありリズムの一種。ルイス・ゴンザーガ(Luiz Gonzaga)がこの音楽を世界中に広め、”バイアォンの王様”と呼ばれている。 ↩︎
Fábio Torres & Cainã Mendonça - Derivas
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