Art Roho 新作は中国の古筝奏者ルシー・ルアンとの意外な共演
ジャズにおけるリズムセクションの役割を再定義し、世界中の様々な音楽家とコラボレーションをすることをコンセプトに活動するベーシストとドラマーによるデュオ、アート・ローホ(Art Roho)。6枚目のスタジオ・アルバムとなる2025年新作『Balanka』は、彼らにとって初めてアジア圏の音楽家を迎え、これまでの北欧ジャズの気風に新たな風を吹き込んだ興味深い作品となっている。
Art Roho はいずれもデンマーク出身のベーシストのヤコブ・ローラン(Jakob Roland)とドラマーのヘンリック・ホルスト・ハンセン(Henrik Holst Hansen)のデュオ。これまでの作品での共演者はデンマークやスウェーデンといった北欧出身のアーティストだったが、今作ではデンマーク出身のピアニストのニコライ・コアネロプ(Nicolai Kornerup)とともに中華人民共和国・北京出身の古箏1奏者ルシー・ルアン(Lucy Luan)が参加し、独特の世界観を見せることに成功している。
収録曲は多くがArt Roho の二人含む参加メンバーのオリジナルだが、意外な選曲も。
(3)「I Love You」はアメリカの人気SSW、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)のカヴァーだ。印象的なイントロのギターのフレーズはベースで奏でられ、ピアノや古筝によってメロディーが奏でられる。古筝のピッチベンドやトレモロは特に効果的に響き、これがとても美しく神秘的で、今作のハイライトの1曲と言えるだろう。
(6)「Yue Er Gao」(月儿高)は中国の伝統曲のカヴァー。作者は実際には不詳だが、唐の玄宗皇帝の作と伝承されており、後に国家管弦楽曲や古筝曲に編曲され、月を描いた器楽音楽の傑作とされている。東シナ海から昇る月が西山の向こうに沈む過程と、月光に照らされた世界の様々な情景を抒情的に描いており、ここでもルシー・ルアンの古筝が主導しつつ、北欧の空気にも馴染んだジャズが展開される。
ピアニストのニコライ・コアネロプの貢献も見逃せない。彼は1981年コペンハーゲン生まれで、ピアニスト/アコーディオン奏者として長く活動している。比較的力強いタッチから紡がれる美しいアドリブのフレーズが特長的で、カルテットの音楽的な軸を支えている。
Jakob Roland – bass
Henrik Holst Hansen – drums
Lucy Luan – guzheng
Nicolai Kornerup – piano
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