ブラジル音楽革新の象徴・レニーニ、10年ぶりの新作『EITA』──“聴く映画であり、観るレコード”

LENINE - EITA

レシーフェ出身SSWレニーニ、待望の新作

レニーニが戻ってきた!
切れ味抜群のガットギターと、スウィングしながらラップするように歌う独特のヴォーカル。ブラジル北東部(ノルデスチ)の伝統音楽とロックを融合させた革新的なスタイルは、今も変わらない。1990年代にイノベーターとしての彼を発見した人も、そうでない人も、この独創的な音楽にぜひ触れてみてほしい。

ブラジル北東部、ペルナンブコ州レシフェ出身のシンガーソングラーのレニーニ(Lenine)『Carbono』(2015年)以来、約10年ぶりのスタジオ・アルバムとなる『Eita』をリリースした。11曲はすべてオリジナルの新曲で、彼の故郷であるノルデスチへのオマージュとして位置づけられ、伝統的なリズムと彼自身の個性による現代的なアレンジを融合させたコンセプチュアルな作品となっている。

(2)「Eita」。レニーニの歴史的名曲「Jack Soul Brasileiro」を彷彿させる

テーマとして掲げられるのは北東部地域の文化、力、歴史へのトリビュートだ。環境問題(environmentalism)、外国人嫌悪(xenofobia)、家族の絆、祖先性(ancestralidade)、自由(freedom)、遺産(heritage)、愛情(affection)を探求する。タイトルの「Eita」とは、北東部で使われる感嘆詞のスラングから来ており、アルバム全体が地域のアイデンティティを強調。Lenineはインタビューで「ブラジルは北東部に大きな債務を抱えている」と語っており、地域の文化的・歴史的貢献について正当な評価を訴える。

聴く映画であり、観るレコード

今作のリリースにあわせ、YouTubeではアルバムの全曲をつなぐ約33分間のフィルムが公開された。映像には家族の古いスナップショットや、彼のパートナーであるアンナ・バホーゾ(Anna Maria Giorgi Barroso)も象徴的に登場し、彼が大切にする想い出を表現。レニーニは今作について“聴く映画であり、観るレコードである”というほどビジュアル表現への拘りを見せている。これはシングルが席巻する市場に対する彼なりのアンチテーゼとして機能しており、アルバムというフォーマットを、アーティストが創る音楽への完全な没入体験に昇華させるという理念に基づく。

新旧の多彩なゲストも魅力的だ。
(4)「O Rumo Do Fogo」にはマリア・ガドゥ(Maria Gadú)、(5)「Foto De Família」にマリア・ベターニア(Maria Bethânia)、(7)「Malassombro」にシバ(Siba)が参加。

このアルバムはブラジルの音楽文化に大きな貢献をし、この10年間で逝去した北東部出身の4人の偉大な人物──ドミンギーニョス(Dominguinhos, 1941 – 2013)、エルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal, 1936 – 2025)、レチエレス・レイチ(Letieres Leite, 1959 – 2021)、そしてナナ・ヴァスコンセロス(Naná Vasconcelos, 1944 – 2016)──に捧げられている。

Lenine:ブラジル音楽を拡張した男

レニーニ(本名:Osvaldo Lenine Macedo Pimentel)は1959年ペルナンブコ州ヘシーフェ生まれのブラジルを代表するシンガーソングライター/ギタリスト。1993年に、のちに“モダン・パンデイロの巨匠”と呼ばれることになるパーカッション奏者、マルコス・スザーノ(Marcos Suzano)と制作した名盤『Olho de Peixe』で一躍話題に。ヒップホップやブラジル北東部音楽を消化したロックという独自の立ち位置を獲得し、世界的な名声を得た。

ブラジル音楽の「第三の河岸(terceira margem)」を象徴する“辺境の”ミュージシャンとして位置づけられ、ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)やカエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)のトロピカリア運動の系譜を引き継ぎつつ、1990年代の「新MPB」ブームを牽引した一人として知られている。

評価面では、2002年から2018年にかけて7回のラテングラミー賞を受賞し、9回のブラジル音楽賞(Prêmio da Música Brasileira)と2回のAPCA賞を獲得。批評家からは「21世紀のブラジルシーン標準担い手(padrão de portador da cena brasileira)」や「国家的英雄(herói nacional)」と称賛され、ニューヨーク・タイムズ(New York Times)はジルベルト・ジルの系譜として「鋭く遊び心ある」アーティストと評している。

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