ユダヤ伝統をグローバルと接続する。ピアニストのヨタム・イシャイ新作『Singing of The Herbs』

Yotam Ishay - Singing of The Herbs

ヨタム・イシャイ、8ヶ国のミュージシャンを招いた傑作

イスラエル出身のピアニスト/作曲家ヨタム・イシャイ(Yotam Ishay)が、8ヶ国から23人のミュージシャンを招き、伝統的なユダヤ音楽をベースに、ジャズを通じて世界との対話を試みた新作『Singing of The Herbs』。ピアノを中心とし、ヴォーカルやスポークン・ワード、ストリングスなども交えたバラエティに富んだ楽曲が収録されており、どこか神秘的で厳かな雰囲気を漂わせる美しい作品だ。

(1)「Singing of the Herbs / שירת העשבים」はイスラエルを代表する作曲家ナオミ・シェメル(Naomi Shemer, 1930 – 2004)作曲で、もともとナフマン・ブラツラフ1(Nachman Bratslav, 1772 – 1810)の詩に曲をつけたもの。ここでは歌の代わりにラビ・ナフマンの詩をヘブライ語や日本語を含む7言語によるスポークン・ワードの形で解釈し、多文化的なアプローチが際立つ。

(1)「Singing of the Herbs / שירת העשבים」

(5)「A Japanese Tale / אגדה יפנית」はアリエル・ジルバー(Ariel Zilber, 1943 – )作曲、エフド・マナー(Ehud Manor, 1941 – 2005)作詞の1970年代のヒット曲のカヴァー。原曲は日本の昔話にインスパイアされた悲劇的な物語が描かれており、今作ではヨタム・イシャイによるソロピアノでより抒情性を噛み締めるような演奏が展開される。

ほかにもマティ・カスピ(Matti Caspi, 1949 – )の(3)「Always Change / להשתנות תמיד」やイェホラム・ガオン(Yehoram Gaon, 1939 – )の(4)「Avadim Hayinu / עבדים היינו」などなど、イスラエルの音楽史をなぞるような選曲も魅力的。アルバムの制作には10年間をかけたといい、録音も様々な場所で行われている。素朴だが普遍的なメロディーや物語性をもった音楽を活き活きと甦らせる、素晴らしいアルバムだ。

ヴァイオリン奏者Bengisu Gokceをフィーチュアした(8)「The Wheat Grows Again / החיטה צומחת שוב」

今作には日本からピアニストの壷阪健登(Kento Tsubosaka)が(1)「Singing of the Herbs / שירת העשבים」のスポークン・ワードに、そしてパーカッション奏者のカン・ヤナベ(Kan Yanabe)が(2)「Shir HaKerem / שיר הכרם」や(4)「Avadim Hayinu / עבדים היינו」など5曲に参加している。

Yotam Ishay 略歴

ヨタム・イシャイは、イスラエル北部の小さな町アフラ出身の作曲家/ピアニスト/教育者。米国のバークリー音楽大学を卒業しており、ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動している。

彼の音楽は、印象派、ジャズ、中東音楽の影響を融合させたインターディシプリナリーなスタイルが特長。キャリアは多岐にわたり、Spotifyで100万以上のストリーミングを記録している。デビューEP『Opus 1』(2018年)はNetflix作品に使用され、ソロピアノのEP『SEED』(2021年)は日本の『JAZZ LIFE』誌やフランスの『Djolo』誌から好評を得た。最新作『Singing of The Herbs』(2025年12月リリース)は、イスラエル・フォークの伝統をジャズとワールドミュージックで再解釈したプロジェクトで、8ヶ国から23人のミュージシャンが参加している。

これまでの著名なコラボレーションとして、ザキール・フセイン(Zakir Hussain)、マイケル・リーグ(Michael League)、ビル・ローレンス(Bill Laurance)、アダム・バウディヒ(Adam Baldych)、シャンカール・マハデヴァン(Shankar Mahadevan)らが挙げられる。

Yotam Ishay – piano, accordion, voice, arrangements, production

Maayan Zitman – vocals (3)
Harshitha Krishnan – vocals (9)
Zalmi Katz – vocals (10)

Anastasiya Voytyuk, Pedro Osuna Ardoy, Kento Tsubosaka, Sam Newsome, Adirchai Haberman-Browns, Simona Smirnova, Pravah Khandekar, Bahar Badieitabar – spoken word (1)

Sam Sadigursky – bass clarinet (1)
Bengisu Gokce – violin (8, 10)
Emanuel Keller – cello (10)

Youngchae Jeong – bass (2, 3, 4, 7, 8, 9)
Kan Yanabe – percussion (2, 4, 7, 9, 13)
Thomas Antonio Debelian – percussion (7)
Gal Petel – drums (1)

  1. ナフマン・ブラツラフ(ヘブライ語:נחמן מברסלב)…ハシディズム(ユダヤ教信仰復興運動)の開祖バアル・シェム・トーブの曾孫であり、ブレスラフ派 (chasiduth breslabh) と呼ばれるハシディズムの一流派を創始した。 ↩︎
Yotam Ishay - Singing of The Herbs
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