ボサノヴァの普遍的な美しさを広く伝えるルイーザ・ソンザ新作
ブラジルの人気ポップ歌手ルイーザ・ソンザ(Luísa Sonza)の新作が話題となっている。アルバムは2026年1月13日にリリースされた直後、24時間以内にiTunes BrasilとApple Musicで1位。ポルトガルでトップ10、アルゼンチン、パラグアイ、アンゴラ、モザンビーク、トルコでも上位に入るなど世界的な注目を集めている。
アルバムタイトルは『Bossa Sempre Nova』。意訳すると「常に新しいボサノヴァ」そんな感じだろうか。その名の通り、これまでの王道ポピュラー路線から一転、半世紀以上も前に生まれたボサノヴァに焦点を当てる。コラボレーターはホベルト・メネスカル(Roberto Menescal, 1937 – )とトッキーニョ(Toquinho, 1946 – )、いずれもボサノヴァの黄金期から活躍する巨匠だ。1曲を除きすべてボサノヴァのクラシカルなカヴァーで構成されており、彼女が自身の音楽的ルーツの主要なひとつとして挙げるボサノヴァへの愛情を表す内容だ。
アルバム制作のきっかけは彼女の前作『Escândalo Íntimo』(2023年)の収録曲「Chico」がボサノヴァ風のアレンジで大ヒットしたことがきっかけ。この曲をホベルト・メネスカルが気に入り、ルイーザに連絡を取ったところからプロジェクトが始まったという。ルイーザはトッキーニョの参加を熱望し、意外なことにオファーは快諾された。
正直に言って、このアルバムに革新性はまったくない。収録曲も多くが有名曲だし、ロベルト・メネスカルとトッキーニョの演奏もアルバムの謳い文句である“ボサノヴァの現代的な再解釈”の割にはあまりに保守的だ。だが、そんなことはどうでもいい。彼女の歌をアストラッド・ジルベルト(Astrud Gilberto, 1940 – 2023)やエリス・へジーナ(Eris Regina, 1945 – 1982)、ナラ・レオン(Nara Leão, 1942 – 1989)と比べることも意味がない。──アルバムを再生すれば、直ちに心地よい最高の音楽が空間に広がる。ヴィオラォンのバチーダが奏でる優しく豊かな和音、過度に感情を乗せずに正確な音程で歌う女性ヴォーカル。これが、彼女のいう「常に新鮮なボサノヴァ」そのものなのだ。
収録曲を聴けば、ボサノヴァという音楽がいつまでも新鮮であり続ける理由がわかる。
バーデン・パウエル(Baden Powell, 1937 – 2000)作曲/ヴィニシウス・ヂ・モラエス(Vinícius de Moraes, 1913 – 1980)作詞の(1)「Consolação」に始まり、マルコス・ヴァーリ(Marcos Valle, 1943 – )の(5)「Samba de Verão」、アントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim, 1927 – 1994)の(6)「Triste」に(7)「Águas de Março」、そしてホベルト・メネスカルの代表曲である(10)「O Barquinho」などなど。どれもこれも、今も色褪せない素晴らしい名曲ばかりだ。
ボサノヴァというジャンルにおいて、この時代に生まれた曲以上のものを、後世の人間は誰も残せなかった。これは停滞を意味しているのではなく、逆説的にボサノヴァが“常に新鮮な”音楽であることの根拠のように思う。
Luísa Sonza 略歴
ルイーザ・ソンザ(本名:Luísa Gerloff Sonza)は、1998年7月18日、ブラジルのリオグランデ・ド・スル州トゥパレンディ(Tuparendi)に生まれたシンガーソングライター。イタリア系とドイツ系の血を引く彼女は、7歳から地元のガウチョ民俗コミュニティセンターで歌い始め、イベントバンドであるソル・マイオール(Sol Maior)のメンバーとして約10年間活動。毎月最大24回のコンサートをこなし、1公演あたり5000人の観客を集めるほどの人気を博した。
2014年頃からYouTubeでカバー曲を投稿し始め、「カバーの女王」の異名を取るほどの注目を集める。これがきっかけで、2017年にUniversal Musicと契約を結び、プロデビューを果たした。
デビューシングル「Good Vibes」(2017年)を皮切りに、「Olhos Castanhos」(当時の夫Whindersson Nunesに捧げた曲)や、ルアン・サンタナ(Luan Santana)とのコラボ「Não Preciso de Você Pra Nada」を含むセルフタイトルEPをリリース。2018年には「Rebolar」がYouTubeチャート1位を獲得し、その後もヒットシングルを連発。2019年に初のフルアルバム『Pandora』を発表し、ポップシーンでの地位を固めた。2021年、SNSでの過度な誹謗中傷による休養を経て、セカンドアルバム『Doce 22』をリリース。このアルバムは商業的に成功し、リリース後7か月でデジタルプラットフォームで10億回以上ストリームされ、プロ・ムジカ・ブラジル(PMB,ブラジルのレコード市場における主要レコードレーベルを代表する民間団体)からダイアモンド認定を受けた。
2022年にはSony Music Brasilと2000万ドルの契約を結び、国際展開を強化。2023年のサードアルバム『Escândalo Íntimo』は米国の歌手デミ・ロヴァート(Demi Lovato)との「Penhasco2」をフィーチャーし、1億ストリームを超える大ヒットを記録。2024年のラテン・グラミー賞でベストポルトガル語コンテンポラリーポップアルバムとベストソングにノミネートされた。2026年にはホベルト・メネスカル(Roberto Menescal)とトッキーニョ(Toquinho)とのコラボアルバム『Bossa Sempre Nova』をリリースし、ボサノヴァのクラシックを再解釈した作品で新境地を開拓した。
音楽以外では、女優としても活躍しており、TVシリーズ『Dra. Darci』(2018年, Julinha役)、『Os Roni』(2019年)、『Amor de Mãe』(2020年, Mel役)に出演。HBO Maxの『Queen Stars』をPabllo Vittarと共同ホストし、『The Masked Singer Brasil』にゲスト審査員(2022年)や出場者(2024年)として参加した。2024年のNFLインターナショナルシリーズでブラジル国歌を歌い、Netflixドキュメンタリー『If I Were Luísa Sonza』(2023年)と『Escândalo Íntimo – O Filme』(2024年)で自身の人生を語っている。2025年には初のUSツアーを敢行し、ロサンゼルスやサンフランシスコなどで公演。これまでにMultishow Brazilian Music Awards(2017年ベストウェブカバー)、MTV MIAW(2019年ミュージカルレヴェレーションなど複数)、WME Awards(2019年ベストポピュラーソング)、Prêmio Rádio Globo Quem(2021年ベストフィーチャー)など多数の受賞歴を誇り、現代のブラジルのポップシーンを代表する女性歌手として知られている。