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ピアノ

  • 2025-09-24
  • 2025-09-24

イスラエルとロシア出身の3人による痛々しいほどの音楽表現。社会の不条理を映すアリエル・バルト新譜

イスラエル出身、現在はドイツ・ベルリンを拠点に活動する新世代のジャズ・ハーモニカ奏者/作曲家アリエル・バルト(Ariel Bart)が、数年前から粛々と表現を磨き続けてきた「The Trio Project」の集大成であり、そのデビュー作『After Silence』をリリースした。“抒情的”という言葉では軽い、もっと深い感情表現をハーモニカ、チェロ、ピアノという変則トリオで描き出した素晴らしい作品だ。

  • 2025-09-23
  • 2025-09-22

世界に癒しを──。伊ピアニスト、アントニオ・ファラオが新機軸を提示する『Heal The World』

イタリアを代表するピアニスト、アントニオ・ファラオ(Antonio Faraò)によるスタンダードなどカヴァー曲を中心とした新作『Heal The World』。アルバム・タイトルに採用されたのはマイケル・ジャクソン(Michael Jackson, 1958 - 2009)が湾岸戦争勃発と同時期の1991年に発表した反戦歌であり、“世界に癒しを”というテーマが今作全体に通底する。

  • 2025-09-21
  • 2025-09-15

驚くべき意思疎通によって創られた魔法のような北欧的即興。ヨーナ・トイヴァネン・トリオ『Gravity』

ヨーナ・トイヴァネン・トリオ(Joona Toivanen Trio)はフィンランドでももっとも長い活動歴を誇るトリオのひとつだ。日本でも、彼らの存在は比較的知られているだろうと思う。なにせ、彼らのデビュー作『Numurkah』(2000年)を“若干21歳のトリオ、フィンランドからの新風!”と紹介し大々的に売り出したのはあのレジェンダリーな澤野工房だったからだ。実際、彼らの音は北欧ジャズらしいリリカルさがあり、さらに若手特有の背伸びした青さもあり、非常に魅力的に映った。

  • 2025-09-16
  • 2025-09-15

ピアノの詩人フレッド・ハーシュ、名手たちと紡ぐ極上のピアノトリオ作『The Surrounding Green』

これほど心が洗われるような音楽は、なかなかない。“ピアノの詩人”ことフレッド・ハーシュ(Fred Hersch)による、ECM第3作目『The Surrounding Green』。ベースのドリュー・グレス(Drew Gress)もドラマーのジョーイ・バロン(Joey Baron)も長年のコラボレーターだが、このピアノトリオ編成でのスタジオ録音は初だという。選曲もオリジナルとカヴァーでだいたい半分ずつとバランスが取れており、万人にお勧めできるジャズ・ピアノトリオの作品であることは間違いない。

  • 2025-09-13
  • 2025-09-13

モンゴル出身ピアニストと、ドイツ出身低音マルチ奏者。愛情深き男女デュオの初作にして最高傑作

2023年のデビュー作が高く評価されたモンゴル出身のピアニスト、シュティーン・エルデネバートル(Shuteen Erdenebaatar)と、ドイツ出身のベーシスト/クラリネット奏者ニルス・クーゲルマン(Nils Kugelmann)。2020年に出会って以来、音楽だけではなく人生のパートナーとして絆を深めてきた二人による初のデュオ・アルバムが『Under the Same Stars』だ。

  • 2025-09-12
  • 2025-09-12

名手マイケル・ウォルドロップ、アメリカと東欧、南米を結ぶ抒情的な新譜『Native Son』

米国のドラマー/作曲家マイケル・ウォルドロップ(Michael Waldrop)の新作『Native Son』は、ピアノトリオ+パーカッションを中心とした編成でバルカン半島や中東、南米の音楽文化を積極的に取り入れた作品となっており、従来の彼の活動の主軸であったビッグバンドのイメージを覆す作風に驚かされるアルバムだ。

  • 2025-09-10
  • 2025-08-31

日本やアジアの文化を敬愛する南仏発レミ・パノシアン・トリオ、「八」をテーマにしたポップ・ジャズ

フランス初の国際的ポップ・ジャズ・トリオ、レミ・パノシアン・トリオ(Rémi Panossian Trio)の通算8枚目のアルバム『88888888』のテーマは、無限の象徴であり、東アジアの風水文化でもっとも縁起の良い数字とされる「8」をタイトルに冠し、とりわけ東アジアの文化への敬意をユーモラスに表す。シンプルなピアノトリオ編成ながら、楽曲や演奏は豊かな色彩感覚があり、技巧面でも超絶的なジャズでありながら絶妙にキャッチーでポップだ。

  • 2025-09-03
  • 2025-09-03

ロンドンの現代ジャズシーンで注目されるトルコ出身鍵盤奏者ジェンク・エセン新譜『Endlessly』

ロンドンのジャズシーンで注目されるトルコ出身の鍵盤奏者、ジェンク・エセン(Cenk Esen)のアルバム『Endlessly』がリリースされた。カオス・イン・ザ・CBD(Chaos In The CBD)『A Deeper Life』(2025年)への参加でも知られる彼がジャズとエレクトロニックの融合で表現する今作は、移民として住む慣れない街での個人的な苦悩、人間関係、そして周囲の人々や状況が自分の考えや望む通りになることを際限なく期待し、常に失望という結末に辿り着くという自身の癖からインスピレーションを得て制作された。

  • 2025-09-02
  • 2025-08-31

ADHDの特性をジャズの表現に投影する気鋭ピアノ奏者アガ・デルラック新譜『neurodivergent』

ポーランドのピアニスト/作曲家アガ・デルラック(Aga Derlak)の4枚目となるアルバム『neurodivergent』がリリースされた。今作はニューロダイバーシティ(神経多様性)をテーマにしており、ADHDと診断された彼女自身の神経多様性や内面的なカオスを音楽的に表現。音楽的にはやや実験的に、三位一体のピアノトリオと数曲でヴァイオリンのゲストも交え、独創的な世界観の音空間を作り上げた、リスナーに強い印象を残すアルバムとなっている。

  • 2025-08-24
  • 2025-08-24

時代を超える普遍的な傑作。レイヴェイ、待望の3rdアルバム『A Matter of Time』

2ndアルバムである前作『Bewitched』(2023年)がグラミー賞を受賞し、まだわずか5年程度の活動期間ながら一気に世界的なスタートなったレイヴェイ(Laufey)が、待望の新譜『A Matter of Time』をリリースした。現代のポップカルチャーと、レトロでノスタルジックな音楽を高いレベルで融合した唯一無二の存在であるレイヴェイの魅力と存在感を一段と際立たせる作品として広く注目を集め、おそらくは想像以上の再生回数の数字をもって彼女のスター性をあらためて証明するだろう。

  • 2025-08-23
  • 2025-08-24

生のアンサンブルの興奮を凝縮! 鬼才エレズ・アヴィラムがオクテットで挑戦する『ENSEMBLE』

イスラエル・プログレ〜ジャズ界隈の代表的ピアニスト/作曲家のエレズ・アヴィラム(Erez Aviram)がオクテットを率いてニューヨークで録音した新作 『ENSEMBLE』が素晴らしい。彼のピアノはもちろんのこと、管楽器も弦楽器もそれぞれが主役となる稀有なアンサンブルによって、エレズ・アヴィラムという鬼才の音楽の源泉であるジャズ、プログレ、中東音楽、各地のワールド・ミュージックの折衷的で驚きに満ちた音世界が豊かに広がる。

  • 2025-08-22
  • 2025-08-22

「22」の数字に導かれたカリビアン・ジャズ傑作。ジャック・シュワルツ=バール&グレゴリー・プリヴァ

偶然か必然か、「22」という数字に導かれたアンティル諸島生まれの二人の音楽家による素敵な音の語らいである。ともに12月22日生まれ、歳の差は22歳、そして初めて出会ってから22年の節目となるサックス奏者のジャック・シュワルツ=バール(Jacques Schwarz-Bart)と、ピアニストのグレゴリー・プリヴァ(Grégory Privat)の初デュオ作『22』。

  • 2025-08-09
  • 2025-08-09

欧州ピアノトリオのトップランナー、Tingvall Trio。ラテン語で『平和』と冠した感動的な新作

ティングヴァル・トリオ(Tingvall Trio)の記念すべき10枚目のアルバムである『Pax』(2025年)は、アコースティック・ピアノトリオの真骨頂を見せるというファンの期待に見事に応えたものとなっている。これまで同様に、スウェーデン出身の天才的なピアニスト/作曲家マーティン・ティングヴァル(Martin Tingvall)が全曲を作曲し、結成以来ずっと変わらないリズムセクションの二人──キューバ出身のベース奏者オマール・ロドリゲス・カルボ(Omar Rodriguez Calvo)とドイツ出身のドラマー、ユルゲン・シュピーゲル(Jürgen Spiegel)──とともに、過去から絶え間なく連なるジャズの現在と、未来へのひとつの方向を示す。

  • 2025-08-02
  • 2025-08-03

現代ジャズ・ハーモニカの旗手ヨタム・ベン=オール、“諸行無常”をテーマにした美しい新作

現在のジャズ・ハーモニカの第一人者、イスラエル出身のヨタム・ベン=オール(Yotam Ben-Or)の新譜『Impermanence』がリリースされた。長年のコラボレーターであるベネズエラ出身のピアニストのガブリエル・チャカルヒ(Gabriel Chakarji)らを擁するカルテットを中心とし、南米や中東の伝統的な素朴で印象に残るメロディーから、キューバやベネズエラの音楽に触れたことで形成された複雑なリズムまで、音楽家としての彼の繊細で豊かな感情に触れることのできる一枚だ。