世界の音と混ざり合うブラジル音楽
このアルバムのジャンルを一概に語るのは、とても難しい。
(1)「Baião Brasileiro」は曲名にあるようにブラジル北東部の土着音楽バイアォンだし、(2)「Felixiando」はショーロだ。
かと思えば(3)「Pôr Do Sol Em Brasília」は急にエミール・クストリッツァ映画に出てきそうなバルカン・ジプシー音楽にも似たリズムと旋律。
(5)「Lembrando Paco」は曲名(パコの思い出)からそのまま、パコ・デ・ルシアに捧げられたフラメンコ。
(8)「Blue Meth」は青く染めた覚醒剤のこと。曲調もサウンドもイっちゃってる。
特にショーロをベースにしたブラジル音楽が根底にありながらも、遊び心に溢れた楽しい“ワールドミュージック”の世界が広がっている。
知られざるブラジルの鬼才二人が描く、上質な混沌
このアルバム『Retratos Abstratos』はテッド・ファルコン(Ted Falcon)というヴァイオリニスト/バンドリン奏者と、Felix Junior(フェリクス・ジュニオール)という7弦ギタリストによる共作だ。
おそらく日本では無名の音楽家だが、聴いてもらえればすぐに分かるように、どちらも自由自在にそれぞれの楽器を操る素晴らしい演奏家である。
テッド・ファルコンのヴァイオリンは美しく正確無比だし、フェリクス・ジュニオールの7弦から弾き出される音は類を見ないほど力強く、耳に快感をもたらす。
おそらく両者ともクラシックの土台がある上で、ジャズやブラジル音楽などを幅広く吸収し独自の自在な表現を身につけていった演奏家なのだろう。
アルバムタイトル『Retratos Abstratos』の意味は“抽象的な肖像画”。
2人の名前でそれぞれ検索をすると、他にも面白いアルバムがたくさん出てくる。
予定調和ではなく刺激的。良質な音楽を探している方にぜひおすすめしたい。