最果ての歌姫マイラ・アンドラーデが運ぶ至高のカタルシス

Mayra Andrade - Navega

最果ての島国、カーボベルデ

大西洋の真ん中、大小18の火山島からなる島国カーボベルデ。国名は「緑の岬」の意味だ。
日本から見たらもっとも遠い国のひとつで、多くの人はその名前も場所も知らないだろうし、カーボベルデが豊かな文化を持つ国と言われてもピンと来ないだろう。

カーボベルデの歴史は15世紀の大航海時代から始まる。
ヨーロッパ、アフリカ、そしてアメリカ大陸それぞれの中間に位置するカーボベルデは中継地として植民地貿易で栄え、人々が交流するなかで様々な文化が自然に混ざり合い、独特のクレオール文化が生まれた。

混合文化から生まれたカーボベルデの音楽を語る上でキーワードとなるのが「モルナ」と呼ばれる音楽ジャンルだ。故郷や家族に対する想いが歌われることが多く、奴隷貿易や植民地時代の抑圧された環境が背景にある情緒的な音楽で、セザリア・エヴォラ(Cesária Évora)という女性歌手が世界的に有名にしたジャンルでもある。

カーボベルデ音楽を最も魅力的な形で伝えたマイラ・アンドラーデ

そんな遠い遠い異国の海や自然、そこに生活する人々の営み、そしてモルナの流れを汲む彼の地の音楽を、もっとも魅力的な形で伝えてくれた歌手と作品がマイラ・アンドラーデ(Mayra Andrade)の2006年のデビュー作『Navega』だった。

1985年キューバに生まれ、カーボベルデで育ったマイラ・アンドラーデの音楽は、故郷カーボベルデのモルナをベースにしつつも、好んで聴いていたというブラジル音楽の影響も色濃く反映されている。
それだけではなく、フランスのシャンソンやアフリカの音楽などの影響も程よく混ざり合い、なんとも形容しがたい独特の魅力に溢れた音楽が編み出されている。

サウンド面ではギターやカヴァキーニョ、アコースティックベースや多彩なパーカッションによる有機的で緻密なアコースティックアンサンブルが素晴らしく、そこにマイラ・アンドラーデの美しい声が見事に溶け込む。

フランス語で歌われる(5)「Comme s’il en pleuvait」を除き、他はすべてカーボベルデのクレオール語のようだ。ポルトガル語にも近いが少し異なる、美しい響きの言語だ。

『Navega』の1曲目「Dimocransa」のライヴ演奏。
曲名通り「民主主義」という重要なテーマを扱っている。
このライヴでは、ギターの伴奏はアルバムよりもよりアフリカ音楽的なアレンジが施されている。
ガットギターで「Mana」の弾き語りを披露
『Navega』の中でも人気の楽曲「Tunuka」のライヴ映像。

2019年の最新作『Manga』ではよりダンサブルなリズムが強調されるサウンドに進化したマイラ・アンドラーデだが、この最初期の作品が運んでくれるカーボベルデの優しく爽やかな風が、私は好きだ。

Mayra Andrade - Navega
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