のちの輝かしいキャリアの出発点
現役の内科医にして、美しい声を持つ歌手でもあるアン・サリー(Ann Sally)。
細田守監督映画『おおかみこどもの雨と雪』主題歌、ゲームソフト『レイトン教授と最後の時間旅行』主題歌、NHK『みんなの歌』の「のびろのびろだいすきな木」、平成21年度のNHK紅白歌合戦、テレビCM楽曲…などなど、日本を代表する歌手として実績を積み上げてきた。
そんなアン・サリーのデビュー作が2001年発売の本作『Voyage』だ。
これは日本人による21世紀を代表するヴォーカルアルバムだと、今でも確信している。
内容としてはボサノヴァで有名な(1)「O Barquinho(小舟)」、イヴァン・リンスの知られざるサンバの名曲(3)「Emoldurada」、ジャズのスタンダード「The Days of Wine and Roses(酒とバラの日々)」、チャップリンの(8)「Smile」やジョニ・ミッチェル(10)「Both Sides,Now(青春の光と影)」等々、日本人の琴線に触れる外国の名曲を英語やポルトガル語で美しく歌い上げている。
エヴァーグリーンな日本の名盤
演奏は全体的にジャズ&ボッサテイストで、笹子重治(g)を中心にショーロクラブのメンバーが全面的にバックアップするなどクオリティは折り紙つき。
原曲のジャンルはそれぞれ違えど、このアルバムには一貫した統一感があり、それは演奏陣やアン・サリーという稀代のヴォーカリストの成せる業としか言いようがない。
彼女がその後の作品で見せたような自らの作詞作曲の作品や、日本語で歌われる楽曲はこの『Voyage』というデビュー作には見られないが、日本にもこんな素晴らしい歌手がいることを知らしめたという意味でも、この作品の持つ意味はとても大きい。
いつ聴いても新鮮な、音楽の素晴らしさを感じられる名盤だと思う。