日本を代表するインストバンド、ショーロクラブ(Choro Club)が、7人の素晴らしい歌手たちを迎え2011年に発表(2020年にコンプリート版も発売)した『武満徹ソングブック』は、日本を代表する作曲家である武満徹の芸術的でありながらも普遍的な美しい音楽の魅力を、最高の形で現代に蘇らせた名作だ。
武満徹というと昔の前衛音楽の作曲家というイメージしかなかった私にとって、これだけ美しい多くの歌を残していたのかという素直な驚きと、それが昭和歌謡とはまったく違う次元の洗練された音楽だったことに衝撃を受けた。原曲を聴いていないのでどれくらいのアレンジが施されているかよく分からない曲がほとんどなのだけど、この洗練された印象はショーロクラブの演奏力であったり、アン・サリーや松田美緒、おおはた雄一といった素晴らしい表現者たち──“ヴォーカリスタス”の実力によるところも大きいとともに、やはり武満徹という世界的な作曲家が創った作品の奥の深さもあるのだろうと思う。
収録された楽曲はどれもが素晴らしい出来栄えで、武満徹を知らない人にも、アニメ『ARIA』でしかショーロクラブを知らない人にも、ここにいる7人の歌手たちを少しだけ知っている人にも、ぜひ聴いてもらいたい。時代が時代だけに、楽曲によっては戦争といった深刻なテーマを扱っていたりするが、心の底から温かいと感じられるいい意味で凄く真面目な音楽ばかりである。
アン・サリーの美声が響く(2)「めぐり逢い」。
ほんわか系歌手のtamamixによる(6)「恋のかくれんぼ」。
谷川俊太郎の素晴らしい歌詞をおおたか静流が淡々と歌い上げる名曲(11)「三月のうた」。
そして沢知恵がアルバム内で唯一の英語詩を歌う(12)「燃える秋」は最後の燃えるようなコーラスが圧巻。
最初は3人の歌手によって歌われ、最後はショーロクラブの3人のみで幽玄に締めくくる(14)(15)「MI・YO・TA」。武満徹が多くの作曲活動を過ごした長野県御代田町に由来する曲名のこの悲しみの極致のような楽曲は、武満徹の死後に彼が遺したメロディーに谷川俊太郎によって詩がつけられたものらしい。
決してブラジルのショーロというジャンルの音楽とは異なるものの、ショーロクラブの3人が奏でるギター、バンドリン、ダブルベースの軽やかで乾いた音と、それぞれに個性的な7人の歌手が歌う武満徹の芳醇な歌という組み合わせは、これ以上ないくらい絶妙なブレンドだ。
CHORO CLUB :
笹子 重治 – Guitar
秋岡 欧 – Bandolim
沢田 穣治 – Contrabass
VOCALISTAS :
アン・サリー (2,10,14)
沢 知恵 (3,12,14)
おおたか静流 (4,11,14)
おおはた雄一 (5)
tamamix (6)
松平 敬 (8)
松田 美緒 (9)