ヤズ・アハメド。美しきトランペッター、魅惑のアラビック・サイケジャズ

Yazz Ahmed - Polyhymnia

UKジャズシーンを代表するトランペッター、ヤズ・アハメド 魅惑の新譜

バーレーン出身、現在はUKのジャズシーンで活躍する女性トランペット/フリューゲルホルン奏者/作曲家のヤズ・アハメド(Yazz Ahmed)の新譜『Polyhymnia』は、ジャズ、アラブ音楽、ラージアンサンブルといった要素を混在させつつも、散漫になることなく見事に纏め上げられた傑作だ。

13のトラックが収録された前作から一転、今作では全6トラックと収録曲は半分程度になっているが、どの曲も10分前後に及ぶ大作で、エキゾチックかつ多彩な楽曲展開は最高に刺激的だ。
多くの人は、彼女の音楽を“サイケデリック・アラビック・ジャズ”と呼ぶ。

ゲストにはヤズ・アハメドと同じくUKジャズシーンをリードする女性たち──サックス奏者のヌバイア・ガルシア(Nubya Garcia)やギタリストのシャーリー・テテー(Shirley Teteh)、トランペット奏者のシーラ・モーリスグレイ(Sheila Maurice-Grey)、ピアニストのサラ・タンディ(Sarah Tandy)といった面々を迎え、終始スリリングな演奏を聴かせてくれる。
また、ヴィブラフォン奏者のラルフ・ワイルド(Ralph Wyld)の存在もこの革新的なアルバムに大きな貢献を残している。

その世界観を象徴するようなエキゾチックなジャケットデザインもまた、前作『La Saboteuse』(2017年 。Bandcampの総合TOP100アルバムで18位を獲得)やそのリミックスEP『La Saboteuse Remixed』などとの統一感があり魅力的だ。

ヤズ・アハメド『Polyhymnia』の(1)「Lahan al-Mansour」

唯一無二のアラビック・ジャズ。ヤズ・アハメドはジャズの歴史にその名を刻む

ヤズ・アハメド(Yazz Ahmed)は1983年英国に生まれ、生まれてすぐに父親の故郷である中東バーレーンに移住した。9歳で母親と姉妹とともに再び英国に戻り、新しい学校で楽器を学ぶ機会を与えられたとき、彼女は1950年代にトランペット奏者として活躍した母方の祖父テリー・ブラウン(Terry Brown)の影響もあり、トランペットを選んだという。

その後トランペット奏者として驚くべき上達を見せた彼女は、レバノンのウード奏者ラビ・アブ・カリル(Rabih Abou-Khalil)のジャズとアラブ音楽が融合した1992年のアルバム『Blue Camel』に出会い衝撃を受け、自身のルーツでもあるアラブ音楽へ傾倒していき、現在のアラビック・ジャズのスタイルを築き上げていった。

そのキャリアは輝かしく、これまでにレディオヘッド(Radiohead)、スウィング・アウト・シスター(Swing Out Sister)、ジョン・ゾーン(John Zorn)、タレク・ヤマニ(Tarek Yamani)、秋吉敏子など国もジャンルも超えて多数のミュージシャンと共演を重ねてきている。

2011年のデビューアルバム『Finding My Way Home』以降、彼女が一貫して追求しているのは自身のルーツであるアラブ音楽と現代ジャズの融合だ。彼女は小柄だが、誰に流されるでもなく常に自身の音を力強く表現し続けている。

ライバルはレバノン出身でフランスを中心に活動するイブラヒム・マアルーフ(Ibrahim Maalouf)かもしれない。微分音を表現できるように物理的に改造された特殊なトランペットを用いる彼に対し、ヤズ・アハメドは独自に微分音フリューゲルホルン(quarter-tone flugelhorn)を調達している。彼女の次のブレイクスルーは、アラブ音楽をもっとも正確に表現可能な微分音の習得かもしれない。

こちらは前作『La Saboteuse』収録曲のMV。
Yazz Ahmed - Polyhymnia
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