カルロス・アギーレ長年のテーマの集大成
アルゼンチンの人気音楽家、カルロス・アギーレ(Carlos Aguirre)の2019年作『La Música del Agua』は、ラ・プラタ川流域に暮らす人々の生活や文化、そしてそれらを包み込む雄大な自然をテーマに創作された多様な楽曲を彼自身のピアノと歌のみで再解釈した厳かで美しい作品だ。カルロス・アギーレはこれまでに数々の名曲を生み出しており、南米を代表するSSWとして知られているが、本作では珍しく自作曲はひとつもない。
まず、ラ・プラタ川とはアルゼンチンとウルグアイの国境を流れる南米の巨大な河川で、河口部にはアルゼンチンの首都ブエノスアイレスがあり、支流パラナ川にはイグアスの滝を擁するなど、南米の人々の生活や自然に大きな影響を与えてきた大河だ。
カルロス・アギーレは長年、この川をテーマにしたソロプロジェクトを行ってきており、本作はその集大成といえる。
収録曲 / 作曲家は次のとおり。
(1) Juancito en la Siesta / Rodolfo Antenor Muller
(2) Pan del Agua / Ramón Ayala
(3) Corrientes Cambá / Edgar Romero Maciel & Alberico Mansilla
(4) Santiago / Silvia Salomone
(5) El Loco Antonio / Alfredo Zitarrosa
(6) Río de los Pájaros / Aníbal Sampayo
(7) Canción de Verano y Remos / Aníbal Sampayo
(8) Pasando Como Si Nada / Luis Barbiero
(9) Sentir de Otoño / Rodolfo Antenor Muller
(10) La Cañera / Aníbal Sampayo
(11) Leyenda / Julio Alberto Ortiz & Matías Cristian Arriazu
(12) Pato Sirirí / Jaime Davalos
3曲が取り上げられているアニバル・サンパイロ(Aníbal Sampayo)、冒頭曲など2曲が採用されたチャチョ・ムレール(Rodolfo Antenor “Chacho” Muller)といったアルゼンチン音楽の偉大な先人たちの作品に加え、シルビア・サロモネ(Silvia Salomone)やルイス・バルビエロ(Luis Barbiero)など志を共にする同時代のアーティストの作品も取り上げているが、こうした様々な作家の作品を演奏していながらも、本作もこれまでのカルロス・アギーレの作品同様に、全体を通して詩的なエッセンスが凝縮され、この稀代の音楽家のおおらかな人間性が反映されたような統一感のある美しい作品に仕上がっている。
タイトルに冠された“水の音楽”から受けるイメージそのもので、聴けば聴くほど心の隅々まで染み渡る、美しいアルバムだ。