個性派勢揃いのエドゥアール・フェルレ・カルテット『Altérité』
澤野工房の看板アーティストとして人気のジャン・フィリップ・ヴィレ(Jean-Philippe Viret)のトリオのメンバーとして知られ、現代音楽的なアプローチでジャズピアノを革新し続けるフランスのピアニスト、エドゥアール・フェルレ(Édouard Ferlet)。2019年の最新作『Altérité』はシリア系フランス人のフルート奏者/ヴォーカリストのナイサム・ジャラル(Naïssam Jalal)、グアドループ出身のパーカッション/ドラム奏者ソニー・トルーペ(Sonny Troupé)、チェロ奏者のギヨーム・ラティール(Guillaume Latil)という超個性的なメンバーを集めたカルテット編成。
各楽曲は最低限の部分のみ作曲され他はすべて即興演奏なのか、それとも全て緻密に計算されつくされたものなのか。それもよく分からない。エドゥアール・フェルレとはそういう音楽家なのだ。知的な印象のフェルレのピアノとギヨーム・ラティールのチェロに対して、ナイサム・ジャラルとソニー・トルーペの印象は“野生児”。なぜこの4人の組み合わせなんだろうと不思議に思うが、これがまた斬新な化学反応を生んでいるように聴こえるから面白い。
決して万人向けの作品ではないと思うが、ジャズや即興音楽、楽器の可能性についての好奇心旺盛な方にとってこの作品によってもたらされる気付きは多いはずだ。
ピアノの哲学者、エドゥアール・フェルレ
エドゥアール・フェルレは昔から不思議なピアノを弾く人だった。
彼の演奏は即興が主体だが従来の“ジャズっぽさ”がほとんどない。かといってクラシックそのものでもなく、彼が生み出すハーモニーもメロディーも、どこか宙を漂うような、掴み所のない感覚に溢れている。おそらく、彼の音楽を最初に聴くひとは戸惑うだろう──この音楽のルーツは一体何なんだろう、と。
経歴を見てみると、ピアノを始めたのは7歳。パリ国立音楽院でクラシック音楽を学び、1992年に米国のバークリー音楽大学の作曲科を卒業している。バークリーでは「バークリージャズパフォーマンス賞」を受賞しており、当初からその独特のセンスは認められていたようだ。
のちにジャン・フィリップ・ヴィレのトリオでも何曲か再演された1999年リリースの『Zazimut』はフランスの現代ジャズの名盤として高く評価された。
日本で名を馳せたのは澤野工房の姉妹レーベル、フランスのSKETCHからの2000年作『Considérations』で、ベーシストのジャン・フィリップ・ヴィレ(Jean-Philippe Viret)、ドラムスのアントワン・バンヴィーユ(Antoine Banville)との“三位一体”で繰り広げられる音の洪水は大きな衝撃を持って迎えられた。
2012年にはバッハの楽曲を再構築するプロジェクト『Think Bach』でピアノを自問自答するような哲学的なソロ演奏で再び音楽ファンの度肝を抜いた。
グランドピアノという異様に大きな楽器は、何も鍵盤部分だけを操作して音を出す必要はない。エドゥアール・フェルレはピアノという楽器の可能性をどこまでも追求していくつもりなのだろう。
Édouard Ferlet – piano
Naïssam Jalal – flute, voice
Sonny Troupé – drums, ka drum
Guillaume Latil – cello, voice