ロンドンの気鋭音楽家、アリス・ザワツキー
個性派SSW/マルチ奏者のアリス・ザワツキー(Alice Zawadzki)の2019年新譜『Within You Is a World of Spring』は、シャーロット・マン(Charlotte Mann)のペインティングによる見事なジャケットアートに象徴されているとおりの強烈なインパクトを残す快作。
アリス・ザワツキーは個性と才能の塊のような真のアーティストだ。
彼女は優れたヴァイオリンとピアノの奏者であり、クラシカルな唱法でも牧歌的な歌唱でも観客を魅了できる歌い手であり、それらを自作の楽曲で時には美しく、時には狂気も感じさせるほど表現力豊かに実演する。
いくつもの痛みからの再生を表現した(1)「Within You Is a World of Spring」から始まる全8曲は、春という再生の季節や、人間と自然との深い繋がりを表現し、どれもが哲学を感じさせる美しく詩的な音楽ばかり。
クラシックやジャズ、プログレやアイリッシュ音楽が混在した彼女の音楽はイギリス誌ガーディアンが「シューベルト、スペイン、そしてスティーヴィー・ワンダーの鮮烈なブレンド」と評したように、まさにジャンルレスだ。
アルバムにはロンドンのジャズシーン注目のギタリストのロブ・ラフト(Rob Luft)が全面参加しており、彼のギターとエフェクターが作り出す音響空間も作品全体に独特の雰囲気を与えている。
スペインの詩人ガルシア・ロルカの詩にアリスが曲をつけ、アルバム中唯一のスペイン語で歌われる(4)「Es Verdad」はアイルランド音楽のリズムや構成が用いられている。
ポエトリー・リーディングを軸に深い自然の風景を連想させる(5)「The Woods」ではヘリム・キム(Hyelim Kim)が演奏する朝鮮半島の横笛テグムの音色も聴こえる。
多様な文化から幅広く吸収した独自の音楽
アリス・ザワツキー(Alice Zawadzki)はポーランド系の英国人。
ロンドンを拠点に活動しており、2014年に『China Lane』でアルバムデビュー。
ピアニストのダン・ウェルドン(Dan Whieldon)とのデュオ作『Lela』や、チェリストのシャーリー・スマート(Shirley Smart)の『Long Story Short』などへの参加でも知られている。
十代の頃にはニューオーリンズの伝説的ジャズシンガー、リリアン・バト(リリアン・ブッテ, Lillian Boutté, 1949 -)から多大な影響を受けた。
音楽教師としての顔も持つ彼女は、映画音楽のスコアやヨーロッパ各地の民俗音楽の研究も行っており、そうした多様な文化的背景が彼女自身の音楽に昇華されているのだろう。
2016年には90年代後半の大ヒット映画『タイタニック』のシネマ・コンサートでヴァイオリン(アイリッシュ・フィドル)のソリスト/ヴォーカリストとして世界各地で公演。日本でも東京フィルハーモニー交響楽団との共演を果たしている。
Alice Zawadzki – vocals, keyboards, violin
Rob Luft – guitar
Misha Mullov-Abbado – bass
Fred Thomas – drums, percussion, keyboards, tenor banjo (4, 8)
Hyelim Kim – taegum (5)
Simmy Singh – violin (1, 2, 7, 8)
Laura Senior – violin (1, 2, 7, 8)
Lucy Nolan – viola (1, 2, 7, 8)
Peggy Nolan – cello (1, 2, 7, 8)