ミルトン・ナシメントやトニーニョ・オルタらが捧げる、偉大なるミナスの詩人へのトリビュート

Fernando Brant - Vendedor de Sonhos

フェルナンド・ブランチ。偉大なるミナスの詩人

ミルトン・ナシメントやロー・ボルジェスの盟友として知られ、2015年に惜しまれながら他界した詩人フェルナンド・ブランチ(Fernando Brant)へのトリビュート・アルバム『Vendedor de Sonhos』(夢を売る人、という意味)がリリースされた。

本作にはフェルナンド・ブランチに縁のあるMPBを代表するアーティストが多数勢揃いし、彼が作詞した往年の名曲を色鮮やかに蘇らせている。

ミルトン・ナシメントやロー・ボルジェス、トニーニョ・オルタなど“街角クラブ”界隈の多くの名曲の作詞を担当したのが、本作の主人公であるフェルナンド・ブランチだ。
この曲は日本でも大人気の「トラヴェッシア」

MPBを代表するアーティストが勢揃い

アルバムはベト・ゲヂス(Beto Guedes)が歌う名曲「San Vicente」で幕を開ける。続く(2)「Credo」にはMPBを代表するコーラスグループ、ボカ・リヴリ(Boca Livre)が参加。

フェルナンドとのコンビで数々の名曲を残したミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)はベト・ゲヂス作曲の美しいバラード(3)「O Medo de Amar É o Medo de Ser Livre」を歌う。

ミルトン/フェルナンドのコンビで私が一番好きな曲は(6)「Milagre dos Peixes(魚たちの奇跡)」かもしれない。本作ではMPBを代表する歌手ジャヴァン(Djavan)が歌っているが、いつ聴いても本当に色褪せない奇跡のような曲だと思う。

ブラジル随一の名曲(9)「Travessia」を歌うのはトニーニョ・オルタ(Toninho Horta)だ。“街角クラブ”から世界へ羽ばたいたブラジルを代表するギタリストが渋い声を聴かせてくれる。
続く(10)「Ponta de Areia(砂の岬)」はホベルタ・サー(Roberta Sá)による歌唱。リズムにもメロディーにもミナス音楽特有の魅力が詰まった名曲にそっと花を添えるような歌とアレンジが魅力的だ。

ホベルタ・サーが歌う(10)「Ponta de Areia」

“街角クラブ”の主役の一人、ロー・ボルジェス(Lô Borges)が歌う(11)「Durango Kid」はトニーニョ・オルタ作曲。
瑞々しさが溢れるロー・ボルジェス初期の名曲(14)「Paisagem da Janela」はサムエル・ホーザ(Samuel Rosa)が歌う。

本作には他にもモニカ・サウマーゾ(Mônica Salmaso)ジョイス(Joyce)ドリ・カイミ(Dori Caymmi)セウ・ジョルジ(Seu Jorge)フェルナンダ・タカイ(Fernanda Takai)ゼー・ヘナート(Zé Renato)などなど新旧のブラジル音楽を代表する音楽家が参加し、全20曲が偉大な詩人に捧げられている。

ブラジル音楽の作詞家というものは特に日本では作曲家やシンガーに比べ目立たず、フェルナンド・ブランチという名も知らなかったという人も多いかもしれない。しかしこのアルバムに収められた数々の名曲を聴けばこの詩人の偉大すぎる功績に気づくことができると思う。

フェルナンド・ブランチの生涯

フェルナンド・ブランチ(Fernando Rocha Brant, 1946年10月9日 – 2015年6月12日)はミナスジェライス州出身の詩人/作詞家/ジャーナリスト。ミナスジェライス連邦大学で法律を学びながら音楽と文学への関心を抱き続けた彼は1960年代のはじめに若き音楽家ミルトン・ナシメントと出会い、彼の曲「Travessia」の歌詞を書いたことですぐにその創造的なパートナーになった。この歌は1967年にリオデジャネイロで開催された音楽フェスティバルで2位を獲得し、今も世界的に歌い継がれる彼らの代表曲となっている。

「Maria Maria」「Canção da América」「Encontros e Despedidas」「Nos Bailes da Vida」「O Vendedor de Sonhos」など、主にミルトン・ナシメントの共作者として200曲以上で作詞を担当。その他でも300曲以上の楽曲の作詞に関わり、ブラジル音楽を代表する作詞家としてその名を馳せた。

1980年代以降はブラジルの作曲家連合の議長を務め、ミュージシャンの著作権の保護に取り組むなどブラジル音楽界の発展に多大に貢献。2001年から2014年にかけては文化コラムニストとして活躍した。

2015年に肝移植手術後の合併症のため68歳で死去。葬儀では集まった人々が「Encontros e Despedidas(出会いと別れ)」や「Travessia」を歌い彼の偉業を称え、別れを告げた。

Fernando Brant - Vendedor de Sonhos
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