ジェレミー・カニングハム『The Weather Up There』
シカゴのジャズドラマー、ジェレミー・カニングハム(Jeremy Cunningham)は2008年に自宅に押し入った二人組の強盗が発砲したライフル銃により、最愛の兄弟を失った。
2020年のソロデビュー作『The Weather Up There』は、そんな彼自身の個人的な想いを、銃が支配する米国社会に向けて音楽に託して吐露した作品だ。
音楽は、その背後にあるストーリーによってその重み、深みが何倍にも増す。
本作にはジェフ・パーカー(Jeff Parker)がギタリスト/プロデューサーとして全面参加しているほか、マカヤ・マクレイヴン(Makaya McCraven, ds)、ジェイミー・ブランチ(Jaimie Branch, tr)、ベン・ラマー・ゲイ(Ben LaMar Gay)といった現代ジャズを代表する音楽家が多数参加しているが、その事実以上に、テーマに据えられた“命の重み”が痛いほどに伝わってくる。
収録された音楽の多くは(ときに感情が溢れ出す当事者たちのスポークン・ワードを除いて)テーマほどの絶望は直接的には感じられず、むしろ人生の最悪の悲しみを経験した彼らが未来を見据えて這い上がる過程を映すような美意識が感じられる。
中でも Chicago Drum Choirと名付けられた4人のドラマー(ジェレミー・カニングハム、マカヤ・マクレイヴン、マイク・リード、マイケル・パトリック・アヴェリー)によって奏でられる(3)「All I Know」や(7)「Elegy」は象徴的だ。いくつもの打楽器とスポークンワードによって構成されたこれらの楽曲は、天国にいる故人への祈りであり、鎮魂歌のように聴こえる。
答えの見えないアメリカ銃社会に提示する、ひとつの疑問
年間で15,000人近くが銃による犯罪で死亡している国、アメリカ。
銃による自殺者は年々増え続け、実にその倍近い年間25,000人を数える。
この作品はそんな統計の数字の中にいるひとりの被害者の遺族による切実な叫びだ。
今、銃によって殺されずに生きている私たちは、彼の悲しみと問いかけを受け止めなければならない。
Jeremy Cunningham – drums, percussion, Wurlitzer (2)
Josh Johnson – alto saxophone, keyboards, bass clarinet
Jeff Parker – guitar
Paul Bryan – bass (2,4,5,8), synthesizer
Matt Ulery – bass (6,9,10)
Guests :
Jaimie Branch – trumpet
Ben LaMar Gay – vocals, electronics
Dustin Laurenzi – tenor saxophone, OP-1
Tomeka Reid – cello
Chicago Drum Choir (3,7) :
Mikel Patrick Avery – drums
Jeremy Cunningham – drums
Makaya McCraven – drums
Mike Reed – drums