そっと心に寄り添う、故郷の歌
クロマチック・ハーモニカのグレグア・マレ(Gregoire Maret)、ピアノのロメイン・コリン(Romain Collin)、そしてギターのビル・フリゼール(Bill Frisell)の3人がアメリカの雄大な自然を愛情深く描く『Americana』。
グレゴア・マレのハーモニカが奏でる叙情的な音は広大なアメリカの大地への望郷と憧憬の歌だ。
『アメリカーナ』と題されてはいるけど、この音楽を聴いて思い浮かべる“故郷”はきっと皆それぞれだと思う。3人のうち、純粋なアメリカ人はビル・フリゼールだけだ。グレゴア・マレはスイス出身だし、ロメイン・コリンはフランス。
でもそんな3人がアメリカで出会い、音楽を通じてアメリカという土地を表現する。決してNYやLAのような都会的なアメリカではなく、広大な原風景が広がるアメリカ。牧歌的で、カウボーイのいるアメリカ。まだこんな心がアメリカに残っていたんだな…と、近頃の社会ニュースでしかアメリカを知らない私は思う。
オリジナルのほか、アメリカ生まれの名曲も収録
アルバムには彼らのオリジナル曲のほかに、ジミー・ウェッブ(Jimmy Webb)作曲の(6)「Wichita Lineman」(ブラジル音楽ファンにとっては、セルジオ・メンデスのカヴァーでもお馴染み!)や、ボン・イヴェール(Bon Iver)の(8)「Re: Stacks」といったカヴァーも収録。アルバムの中でもこの2曲は際立って美しく、聴いていて鳥肌が立つほど。
ビル・フリゼールが優しく撫でるように鳴らすギターも本当に最高だ。
グレゴア・マレは1975年、スイスの生まれ。ジュネーヴ音楽院卒業後は活動の軸をアメリカに移し、パット・メセニー、カサンドラ・ウィルソン、スティーヴ・コールマン、ダヴィッド・サンボーン、ミシェル・ンデゲオチェロ、チャーリー・ハンターなど多彩なバックボーンを持つ音楽家たちと共演し、現在のジャズハーモニカの第一人者として知られている。
ロメイン・コリンは1979年、フランス生まれのジャズピアニスト。バークリー音楽大学への入学を機にアメリカに移住している。エレクトロニカを用いe.s.tのような力強い演奏も見せたかと思えば時に非常に繊細なタッチで牧歌的な演奏も行うなど、幅広いスタイルを持つ。
ビル・フリゼールは1951年、アメリカ合衆国メリーランド州生まれのジャズギターの巨匠。その温かみのある個性的な音色、ギタープレイはアメリカ人の原風景を象徴するとも言われる。2004年作『Unspeakble』は第47回グラミー賞でベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム賞を受賞している。
数曲にドラマー/パーカッションのクラレンス・ペン(Clarence Penn)も参加しており、そっと彩りを与えている。
生まれも育ちも違いながら、アメリカという土地の音楽を愛し、ジャズで繋がった3人の素晴らしい演奏に酔いしれたい。
Gregoire Maret – harmonica
Romain Collin – piano, Moog Taurus, pump organ & additional effects
Bill Frisell – acoustic & electric guitar, banjo
Clarence Penn – drums