女性として、一個人として強いメッセージを発するタナ・アレクサ新譜
新世代のヴォーカリスト/作曲家、タナ・アレクサ(Thana Alexa)の2020年新譜『Ona』はセルビアの伝統的な歌をうたうコーラスグループ、Rosa Vocal Group をフィーチュアした東欧的な異色の11/16拍子の楽曲(1)「Ona」がいきなり衝撃的で、すぐに名盤と確信した。
アルバムタイトルの「Ona」とはクロアチア語で、「She」に該当する言葉とのこと。2017年にワシントンDCで開催された女性の権利に関するドナルド・トランプの態度への抗議を示す米国史上最大規模のデモ行進“Women’s March”に参加した経験にインスピレーションされ制作された作品とのことで、前述のRosa Vocal Groupの他にもLGBTの権利についての活動家/朗読家であるステイシーアン・チン(Staceyann Chin)、ジャズヴァイオリン奏者レジーナ・カーター(Regina Carter)、人気SSWベッカ・スティーヴンス(Becca Stevens)といった今を輝く女性たちが参加。現代社会にむけて強いメッセージを発する作品となっている。
今作は2曲を除きすべて彼女のオリジナル曲。
自身もレズビアンであることを公表し、LGBTのカリスマ的活動家であるステイシーアン・チンの怒りのポエトリー・リーディングをフィーチュアした(2)「The Resistance」には圧倒される。
(3)「Pachamama」はアンデスの古い神話にあらわれる豊穣の女神に因んで名付けられた楽曲で、レジーナ・カーター(Regina Carter)のヴァイオリンをフィーチャーした11分におよぶ大作。
イスラエルのトランペッター、アヴィシャイ・コーエンも新譜『Big Vicious』で取り上げるなど現代のジャズではスタンダードになりつつあるマッシヴ・アタック(Massive Attack)のカヴァー(6)「Teardrop」や、逆説的な意味にもとれるティアーズ・フォー・フィアーズ(Tears for Fears)の変拍子でアレンジされた大ヒット曲(10)「Everybody Wants to Rule the World」も、このアルバムの文脈の中で非常に重要な曲として胸に迫ってくる。
参加ミュージシャンの面では前作『Ode to Heroes』(2015年)に引き続き、ドラムに夫のアントニオ・サンチェス(Antonio Sanchez)が全面的に参加。緩急自在のドラミングで全編にわたりこのアーティスティックな作品を彩っている。
現代ジャズ界で強い存在感を醸しはじめたタナ・アレクサ
タナ・アレクサ(1987年 – )はクロアチア人の両親のもと、米国ニューヨークに生まれた。幼い頃から音楽に興味を示し、ヴァイオリンや歌を習った。
小学校を卒業する頃に家族とともにクロアチアに戻り、首都ザグレブの音楽学校でジャズやブルース、ソウルを学び、地元のジャズクラブやフェスなどで歌手としてのキャリアを歩み始めた。
彼女が今もクロアチア語ではなくグローバル・スタンダードである英語で歌い続けているという事実に、クロアチアに移住後も英語を忘れないようにと英語の歌を教え続けた彼女の両親の影響は大きい。
ノースイーストン大学で心理学を専攻し1年間在籍した後、ニューヨークのニュースクールに転校し、ジャズヴォーカル・パフォーマンスと心理学の学位を取得。
2014にニューヨーク・ジャズコンペティションで準優勝し注目を浴びると、2015年にパット・メセニー・グループへの参加など幅広く活躍する夫のメキシコ出身のドラマー、アントニオ・サンチェスとの共同プロデュースのもと『Ode to Heroes』でデビューを飾った。
Thana Alexa – vocals, compositions, arrangements, additional keyboards
Carmen Staff – piano, fender rhodes, additional keyboards
Jordan Peters – guitar
Matt Brewer – acoustic & electric bass
Antonio Sanchez – drums, percussion, additional keyboards
Special Guests :
Regina Carter – violin(3)
Becca Stevens – vocal, charango(8)
Staceyann Chin – spoken word(2)
ROSA Vocal Group – vocals(1)