現代ジャズシーン最注目のチューバ奏者、テオン・クロス
ブラスバンドではベースを担う重要な楽器であるチューバ。独特の重厚感や空気感のあるチューバの響きが好きな方は多いと思うが、そのチューバを本格的なジャズで耳にする機会は思った以上に少ない。ましてやチューバ奏者がリーダーの作品など、珍品扱いだろう。
古くはハワード・ジョンソン(Howard Johnson, 1941年 -)、ボブ・スチュワート(Bob Stewart, 1945年 – )、サム・ピラフィアン(Sam Pilafian,1949年 – 2019年)、ジョン・サス(Jon Sass, 1961年 – )といったジャズ・チュービストもいるにはいるが、やはりジャズの花形楽器とはいえないためか、知名度もいまいちというのが実情だと思う。
そんなジャズ・チューバの“劣勢”を打破すべく、現在進行形のジャズシーンで注目を浴びている奏者がいる。
その名はテオン・クロス(Theon Cross)。ロンドンでジャマイカ人の父とセントルシア人の母との間に生まれた彼はシャバカ・ハッチングス率いるバンド、サンズ・オブ・ケメット(Sons of Kemet)のチューバ奏者としてUKの最先端音楽シーンに飛び出し、いま最も脚光を浴びているジャズ・チューバ奏者である。
今回紹介するテオン・クロスのソロデビューアルバム『Fyah』(2019年)は、珍しいジャズ・チューバの今を知る上で避けて通れない作品だ。
チューバという楽器はその音色の特性から、ビッグバンドなど大人数でのアンサンブルの中では存在感はありながらも、ぼやけがちになってしまう。
テオン・クロスの『Fyah』では、チューバの音の重みを最大限に活かせる少人数の編成でファンキーなグルーヴを吹き上げる。モーゼス・ボイド(Moses Boyd, ds)やヌバイア・ガルシア(Nubya Garcia, sax)といったロンドン・ジャズシーンの俊英たちを迎え、チューバという楽器の可能性を探る興味深い作品に仕上がっている。
Theon Cross – tuba
Moses Boyd – drums
Nubya Garcia – tenor saxphone
Wayne Francis – tenor saxophone
Artie Zaitz – guitar
Tim Doyle – percussion
Nathaniel Cross – trombone