フランス発、手放しで絶賛できるジャズ・ヴォーカル作品
フランスの歌手/作曲家のサラ・ランクマン(Sarah Lancman)の4枚目のアルバム『Parisienne(パリジェンヌ)』がリリースされた。今作はオリジナル曲8曲に加え、シャルル・アズナブール(Charles Aznavour)の(3)「Parce que」、マルグリット・モノー(Marguerite Monno)&エディット・ピアフ(Edith Piaf)の(9)「L’hymne à l’amour」のカヴァーも。
アルバムを再生してまず驚かされるのが、(1)「Et ainsi va la vie」や(2)「Tokyo Song」などオリジナル曲の素晴らしさだ。もちろん彼女の美しい声質も素晴らしいのだけど、それ以上に楽曲の素晴らしさに耳を奪われる。フランス語の柔らかでアンニュイな響き(「Tokyo Song」などは英語だが)とも相まって、この上なく芳醇な音楽と感じる。
アルバムはとにかく全編を通して安心感のある聴き心地。
数曲でゲスト参加しているアルトサックスのピエリック・ペドロン(Pierrick Pedron)やアコーディオンのマーク・ベルトゥミユ(Marc Berthoumieux)の演奏も変化を与えている。
オリジナル曲があまりに素晴らしいので大きく取り上げるまでもないが、エディット・ピアフ作詞、マルグリット・モノー作曲の(9)「L’hymne à l’amour」は邦題「愛の讃歌」として広く知られている曲だ。どこかで聴き覚えのある美しいメロディーに郷愁の想いを抱く方も多いと思う。
ジョヴァンニ・ミラバッシ(p)も全面参加
そして特筆すべきは、やはりバックバンドでピアノを演奏するジョヴァンニ・ミラバッシ(Giovanni Mirabassi)だろう。
サラ・ランクマンは2015年のデビュー当時より、ジョヴァンニ・ミラバッシとの深いパートナーシップを結んできた。2019年には双頭名義のアルバム『Intermezzo』をリリースしているが、引き続きの共演が叶った形だ。
今作では従来の彼女のアルバム同様にミラバッシの名前は前面には出ていないものの、何度も来日公演を行い、宮崎駿監督作品の音楽をカヴァーした『MITAKA CALLING -三鷹の呼聲-』をリリースするなど日本でも話題に事欠かない彼の圧倒的な存在感を放つピアノは間違いなく本作の聴きどころのひとつだ(余談だが、新型コロナ禍でのミラバッシ来日公演の中止は本当に残念…)。
ヨーロッパを代表する叙情派ピアニストとして知られるジョヴァンニ・ミラバッシだが、本作では彼独特の深く憂い沈み込むような耽美な演奏は抑えめに、サラ・ランクマンの“歌”を引き立たせる役に徹している。
それでもソロにはミラバッシらしい流麗なフレーズも出てきて、サラ・フランクマンの歌とともにピアノの音にも存分に浸ることができる。
生粋のパリジェンヌ、サラ・ランクマン
サラ・ランクマンはパリの中心地レ・アール(Les Halles)に生まれた、今作のタイトル通り生粋のパリジェンヌ。幼少期よりクラシックピアノを学び、ローザンヌ音楽院で作曲の学位を取得している。2012年にシュアー・モントルー・ジャズ・ヴォイス・コンペティションで最優秀賞を受賞。審査員長を努めた巨匠クインシー・ジョーンズに「ジャズにとっての真の素晴らしく新しい歌声」との評価を得た。
ジョヴァンニ・ミラバッシのトータル・プロデュースのもと、2015年にアルバム『Dark』でデビュー。美しい声と、非凡な作曲能力で最新のヨーロッパジャズのシーンを牽引する存在だ。
Sarah Lancman – vocal, compositions
Giovanni Mirabassi – piano
Laurent Vernerey – bass
Stéphane Huchard – drums
Spécial guests :
Pierrick Pedron – alto saxophone
Marc Berthoumieux – accordéon