ジャズギター×中東音楽のパイオニア、ミシェル・サフラウィ

Michel Sajrawy - Soul Fingersz

民族音楽はなぜ一部のマニアにしか受け入れられないのか

“民族音楽”というものは、現地特有のいわゆる民族楽器で奏でられる場合、多くのそれとは無関係な人にとってはせいぜい「あー、こういうものもあるよねー」程度に思われ、そしてすぐに忘れられてしまうものだ。

馴染みがない楽器で演奏されるから、その楽器の名前すら知らない。もちろん奏法なんて全く興味がない。
“ワールドミュージック”が一部マニアな人々の間でしか伝播しない根本的な原因は、こうした“自分らの文化との共通点を簡単に見出せないこと”なんだろうと思う。

でももし、そうした“民族音楽”が、あなたが普段慣れ親しんだ楽器で奏でられるとしたらどうだろう。
おそらく、この楽器からこんな曲が生まれるのか!こんなフレーズが生まれるのか!!…そうした新鮮な事実を得られることに気づいて頂けることと思う。

ソロギターのアルバム『Soul Fingers』より、(1)「Hozam」。
ここでのミシェル・サフラウィはジャズの常識的なスケール(旋法)を逸している。

“普通のエレキギター”で中東音楽を再現することの難しさ、あるいはポピュラリティとのバランス感覚

今回紹介するイスラエル・ナザレ出身のギタリスト、ミシェル・サフラウィ(Michel Sajrawy)はエレクトリック・ギターという世界的に最も人気のある楽器のひとつで、世界中を見回しても同様の演奏をするギタリストを探すことが困難なほど独自の演奏表現を見せる音楽家である。

彼は西洋音楽であるジャズと、中東のマカマト(Maqamat)と呼ばれる旋法を融合した独自の音楽を追求している。
中東音楽の微分音を正確に再現しようとするためには、ギターであればフレットを追加するとかフレットレスギターを使う必要があるが、ミシェル・サフラウィはいたって普通のギターを用いてチョーキングなどのテクニックを使い微分音を再現する。これは彼が望む音楽を音楽性、サウンド両面で最善の形で表現するための方法なのだろう。

ミシェル・サフラウィは2006年にデビュー作『Yathrib』をリリースし、現代のジャズと伝統をクロスオーバーする先駆者となった。
2012年の3rdアルバム『Arabop』は、それまでにないジャズとアラビア音楽の高次元な融合として高く評価された。

彼の最新作である2019年作『Soul Fingers』は、全編がミシェル・サフラウィによるソロギターという、おそらくはジャズギタリスト以外にはほとんど感動も与えないであろう辺境の最果てに位置するようなアルバムだ。

だがこの作品を悩めるギタリストの方々が聴いたとき、これはただの“民族音楽”ではなく、行き詰まった西洋音楽理論の殻を破る新たな手法として大いに参考になる作品なのではないかと思う。

ギタートリオでの演奏動画。
2016年作『Floating City』収録曲。
Michel Sajrawy - Soul Fingersz
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