アルゼンチンの交響楽団オルケスタ・スィン・フィン、アルゼンチン音楽の今を伝えるライヴ盤
アルゼンチンの交響楽団、オルケスタ・スィン・フィン(Orquesta Sin Fin) が、人気バンド、アカセカ・トリオ(Aca Seca Trio)と、歌手ナディア・ラルヒャー(Nadia Larcher)と共演した公演を『Estaciones Sinfónicas 1』として音源化し、リリースした。
これはオルケスタ・スィン・フィンが2017年12月21日(ナディア・ラルヒャー)、2018年3月25日(アカ・セカ・トリオ)と行なった公演の中から特に優れた演奏を選曲し1枚のアルバムにまとめたもののようだ。
ナディア・ラルヒャーはアルゼンチンの著名な作曲家による楽曲を主に歌っている。
(1)「La Diablera」はヒルダ・エレーラ(Hilda Herrera)とアントニオ・ネラ・カストロ(Antonio Nella Castro)によるサンバ(=Zamba。ブラジルのサンバとは異なる、アルゼンチンの6/8拍子の民俗舞曲)。
途中で咳込んでしまうほど情感豊かに歌うリリアナ・フェリペ(Liliana Felipe)作のヒット曲(2)「Pero No Te Extraño」での表現力も素晴らしい。
(3)「Un Puente al Sol」を作曲したSSW、テレサ・パロディ(Teresa Parodi)はアルゼンチン北東部の“リトラール音楽の女王”とも呼ばれる存在だ。
アカ・セカ・トリオは(4)「Pasarero」から登場。このカルロス・アギーレ(Carlos Aguirre)の名曲など、いくつかカヴァー曲を歌うが、真骨頂は彼ら自身の名曲(8)「Paseo」だろう。アカ・セカ・トリオのギタリストであるフアン・キンテーロ(Juan Quintero)作曲のこの超名曲(人によってはサビの一部が星野源の曲「ドラえもん」にとても似ている、という意見もある)をオーケストラ編成で楽しめるというだけで、このアルバムを必聴盤に推したい。アカ・セカ・トリオのこの曲が収録されたオリジナルアルバム『Trino』(2018年)はリリース当初は定額制ストリーミングサービスで配信されていたが、1ヶ月ほどして突如ストリーミングから削除され聴けなくなった(おそらくは大人の事情)という経緯もあり、この曲の再演はまさしく待ち望んだものだった。
オルケスタ・スィン・フィンを指揮するエセキエル・マンテーガ(Exequiel Mantega)はピアソラの研究でも有名な1983年生まれの若く野心的なピアニスト/作曲家。妻はフルート奏者のパウリーナ・ファイン(Paulina Fain)。
この交響楽団はブエノスアイレスの実力者たちで構成されており、今回のプロジェクトでも分かるようにジャズやポップスとの果敢な取り組みで知られる注目のオーケストラだ。
今作のアルバムタイトルの最後にある「1」がやはり気になってしまうが、実はオルケスタ・スィン・フィンは2017年9月20日に女性歌手ドゥラティエラ(Duratierra)と、さらには2019年6月19日にはイタリアの作曲家/ピアニスト/シンガーのステファノ・ボラーニ(Stefano Bollani)との共演も行なっている。
これらが『Estaciones Sinfónicas 2』として今後リリースされることはほぼ既定路線だろう。首を長くして待っていたい。