フランスの個性派ピアニスト、深みのある初のオリジナル・ソロピアノ集
現代的な嗅覚と、独創的かつ豊かな叙情性を湛えたピアニズムで2010年のトリオ作『On Air』などで人気を博すフランスのピアニスト、ベンジャミン・モウゼイ(Benjamin Moussay)の新作『Promontoire』は全編ソロピアノでECMからのリリース。これまでもヨーロッパを代表するサックス/クラリネット奏者であるルイ・スクラヴィス(Louis Sclavis)諸作への参加でECMと関わってきたベンジャミン・モウゼイが、初めてECMからリーダー作をしかもソロでリリースした形だ。
これまでの彼のリーダー作では前衛的な面も見せつつリリカルなピアノが特長だったが、ソロとなった今作は全体的に自身の内面に深く沈み込んだような深みのある演奏がとても印象的。
(1)「127」はアメリカ合衆国の登山家、アーロン・リー・ラルストンが遭遇した壮絶な事故に関する伝記映画『127時間』にインスパイアされたもの。悲壮感の漂う曲調が続くが、耐え難き時間を耐え、生きることへの執念をついに失わなかった強い精神力で、ラストは一筋の希望を見つけるような展開となっており心を動かされる(ベンジャミン・モウゼイ自身もアウトドア派らしい)。
アルバム表題曲である(2)「Promontoire」、そして(3)「Horses」と孤独に向き合うような曲調が続き、(4)「Don’t Look Down」ではついにその不安が激しく表出したような演奏になっている。
ある人は、このアルバムに収められた音楽から美しいヨーロッパ映画を想起するかもしれない。
事実、3曲ほどはエミール・ゾラの小説『ナナ』を原作とした1926年のサイレント映画『女優ナナ』のために書かれたものらしい。
全てベンジャミン・モウゼイ作曲による12曲。
彼のこれまでの作品のイメージから上澄みを掬い、その奥底にある人間の深みに触れることができる素敵な作品だ。
Benjamin Moussay – piano