デビュー作からより一層の深化を遂げたDer Weise Panda セルフタイトル新譜
女性ヴォーカリスト、マイカ・キュスター(Maika Küster)を中心としたドイツ・ケルンの4人の若者によるバンド、デア・ヴァイゼ・パンダ(Der Weise Panda)は2016年に『Mam』でアルバムデビューした。
ジャズとクラシックを知性の器でmixしたピアノトリオのサウンドに、少しアンニュイさも感じさせるスモーキーな女性ヴォーカルが乗る。ありそうでなかなか他にはない彼らの音楽に現代的センスの塊を感じた。
それから4年。セルフタイトルとなる2ndアルバム『Der Weise Panda』がリリースされた。
前作も素晴らしかったが、はっきり言って、この新譜は傑作だと思う。
アルバムの数曲を聴けば、彼らの才能は自ずとはっきりする。
チェリストの加入とピアニストの交代で深化した音楽
今作では前作のカルテットに加え、イスラエル・エルサレム出身でエルサレム交響楽団でも活躍した女性チェリスト、タリア・エアダル(Talia Erdal)が演奏面・作曲面ともにほぼ全面的に参加。チェロという楽器が元来持つふくよかな響きが加わり、曲によっては大々的にフィーチュアされたことでサウンドは北欧的な新世代ジャズの印象が濃かった前作から大きく印象を変え、よりクラシック的な豊かさを増した。
さらに前作からはピアニストがサイモン・セーベルガー(Simon Seeberger)からフェリックス・ハウプトマン(Felix Hauptmann)に変わっており、この変化も大きい。フェリックスは「サイモンの足跡を辿る挑戦だ」と語っているが、前作と聴き比べればこの変化は歴然で、バンドの演奏がより詩的・哲学的な方向に深化することに大きな貢献を果たしている。
このバンドの最大の魅力はやはりリーダーであるヴォーカリスト、マイカ・キュスター(Maika Küster)だろう。そもそも人間の耳というものは人の声に敏感なように出来ているものだが、バックの緻密でハイレベルなジャズアンサンブルにも関わらず彼女の個性的な声が常に完璧にサウンドの中心に存在し、惹き込まれる。歌手としての表現も多彩だ。
シンプルな15/16拍子のリフが繰り返される(2)「Shared」は今作のハイライトのひとつだが、徐々に自由に盛り上がるバンド演奏に対して、過度に感情を出し過ぎず淡々と歌うマイカの存在感が逆に際立つ。ジャズのフォーマットでありながら、UKロックにも影響を受けたようなメロディーや楽曲展開も馴染みやすいポイントだろう。
ヤニク・ティーマン(Yannik Tiemann)のベースが力強くドライヴするイントロで始まる(5)「Distant Shores」もこのバンドのレベルの高さを強く印象付ける。ジョー・ベイヤー(Jo Beyer)のドラムはバスドラムの四つ打ちから始まるが、徐々にタムを中心に細かいリズムを刻み始め、最後には怒涛のドラムソロが展開される。
真のユーモアは知性からしか生まれない
“賢いパンダ”を意味するこのユニークなバンド名は、ヴォーカリストのマイカ・キュスターが研究熱心だった学生時代、師事していたポーランド出身の女性サックス奏者アンジェリカ・ニーシエ(Angelika Niescier)から目の下のクマを「パンダのように見える」と揶揄されたことに由来しているという。
早くから圧倒的なセンスと個性を見せつけてきたデア・ヴァイゼ・パンダ(Der Weise Panda)。既におそろしく高いレベルにあり完成されたバンドのように思うけれど、1stから今作でのサウンドの変化をみるに、これからまだまだ発展の余地がありそうだ。
さらに様々なものを吸収し、ドイツのみならずジャズや音楽の進化の中で影響力を持つようになってきたら面白い。
Der Weise Panda :
Maika Küster – vocal
Felix Hauptmann – piano
Yannik Tiemann – bass
Jo Beyer – drums
Talia Erdal – cello