世界でもっとも美しい“大人のための”リコーダー&ギターの音楽

Rodney Waterman & Doug de Vries - Agua e Vinho

リコーダーと7弦ギターの珍しいデュオ

英語の「record」には古くは“小鳥のように歌う”という意味があったようで、多くの人が小学校や中学校で演奏してきた楽器リコーダー(recorder)の語源として有力な説になっている。
シンプルな構造によるこの楽器の少し不安定な音程もたしかに小鳥の歌のようで素朴な魅力があるが、多感な成長期に慣れ親しんだリコーダーも大人になるにつれその存在は忘れられ、プロの演奏を耳にする機会もなく、年末の大掃除の最中に部屋の片隅からふと発掘され、懐かしい思い出とともに掃除を少しの間中断させる程度の役割しかないと思われがちな寂しい宿命の楽器でもある。

Eテレでおなじみの栗コーダーカルテットのような著名グループやプロのリコーダー奏者もいるにはいるが、多くはリコーダー専門ではなくクラリネットやサックス奏者のサブ楽器だったりと、どうしてもリコーダーは下に見られがちだ。

今回はそんな不憫な楽器、リコーダーが大活躍する“大人向け”の音楽作品を紹介したい。これを聴いた次にはきっと、家中の引き出しを開けてどこかの奥底に眠るリコーダーを探し始めることだろう。

ロドニー・ウォーターマン、リコーダー専門のプロ奏者

2000年にエグベルト・ジスモンチが主宰するECMの姉妹レーベル、Carmoからリリースされたアルバム『Agua e Vinho』は、オーストラリア出身のプロのリコーダー奏者、ロドニー・ウォーターマン(Rodney Waterman)と7弦ガットギター奏者、ダグ・デ・ヴリーズ(Doug de Vries)のデュオによって演奏された作品。

ここにはブラジル音楽の鬼才エルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal)の代表曲(2)「Bebê」やエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)の(5)「Frevo」や(19)「Loro」などの美しい難曲、さらにはガロート(Garoto)によるショーロの名曲(7)「Jorge do Fusa」や伝統曲、古典バロック音楽、二人によるオリジナルなどが全21曲も収録されており、ガットギターとリコーダーの温かな音色と素晴らしい演奏を存分に楽しめる。

ロドニー・ウォーターマンが吹くリコーダーはとても私たちが学校で習ったものと同じ種類の楽器とは思えないほど自在で表情豊か。フルートかピッコロかと思うような巧みさで、それでもどこかリコーダー特有の音程の不安定さも僅かに残り、なんとも美しく気持ちが安らぐ音楽だ。まさに、小鳥の歌。
ジスモンチの名曲(18)「Karatê」では最高音に苦戦する場面もありほっこりできる。

エルメート・パスコアールの名曲(2)「Bebê」のライヴ演奏。
ジスモンチの(18)「Karatê」〜ウォーターマンのオリジナル(13)「Ade」

演奏者プロフィール

ロドニー・ウォーターマン(Rodney Waterman)はオーストラリア出身のリコーダーを専門とする奏者/作曲家/音楽教育者。即興音楽を中心にシンプルな木の楽器が持つ本質的な美しさを探究しており、これまでに澤野工房の諸作で知られるピアニストのジョー・チンダモ(Joe Chindamo)や、ベース奏者ベン・ロバートソン(Ben Robertson)、パーカッション奏者トニー・ルイス(Tony Lewis)、尺八奏者のライリー・リー(Riley Lee)といったオーストラリアのミュージシャンらと共演してきている。

ダグ・デ・ヴリーズ(Doug de Vries)はオーストラリア・メルボルン出身。もっとも卓越した7弦ギター奏者のひとりとして知られており、ジャズ、ブルース、ブラジル音楽、ジプシー音楽など活躍の場も多岐にわたる。1990年にジャズ作品『Doug De Vries』でデビュー。最新作はブラジルのギタリスト、マウリシオ・カヒーリョ(Mauricio Carrilho)とのデュオ作『8 com』(2014年)。

Rodney Waterman – recorders
Doug de Vries – guitar
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Rodney Waterman & Doug de Vries - Agua e Vinho
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