サンパウロを代表するアーティスト、ダニ・グルジェルの新プロジェクト
ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテート(Dani & Debora Gurgel Quarteto, DDG4)での活躍や、若く優れた音楽家を支援するノヴォス・コンポジトーレスのプロジェクトなど、ブラジル・サンパウロのジャズ周辺の現行音楽シーンの中心人物であるダニ・グルジェル(Dani Gurgel)の新しいプロジェクトがお目見えだ。
ダニ・グルジェルはドイツのジャズフェス「Jazzahead」で、音楽、ひいてはジャズという世界共通の言語を通じてミュージシャンがその国籍に関係なく交流できるようにする方法についてディスカッションを持った。これにドイツのレーベル、BERTHOLD RECORDSのプロデューサーも賛同。ブラジル、デンマーク、ドイツ、イスラエルからメンバーを集めてブラジルのサンパウロで10日間のレコーディングを決行し、サンパウロ・パニックのデビューアルバム『São Paulo Panic』として結実させた。
ブラジル、ドイツ、デンマーク、イスラエル出身のメンバーが集結
São Paulo Panic のメンバーにはサンパウロ出身のダニ・グルジェル(vo)のほか、DDG4で長年活動を共にするダニの夫でありドラマーのチアゴ・ハベーロ(Thiago Rabello)、さらにカート・ローゼンウィンケルやアントニオ・ロウレイロとの共演などで現代ブラジル音楽を代表するベーシストとして知られるミナスジェライス出身のフレデリコ・エリオドロ(Frederico Heliodoro)のブラジル勢に、ドイツ出身で米国NYを拠点に活動するサックス奏者ティモ・フォルブレヒト(Timo Vollbrecht)、ゲイリー・バートンに師事するデンマークのヴィブラフォン奏者マーティン・ファブリキウス(Martin Fabricius)、今回の最年少メンバー(1998年生まれ)でもイスラエル出身でドイツを拠点に活動するギタリスト、タル・アルディティ(Tal Arditi)が参加。
収録曲はメンバーがそれぞれ持ち寄った楽曲で、ダニ・グルジェル作曲の(2)「Sem Ar」はDDG4の『Garra』(2015年)で、(5)「Depois」はタチアナ・パーハとのデュオで過去に歌われているが、これらの曲も全く印象が異なっていて面白い。今作にはピアノがおらず、和音は専らギターとヴィブラフォンによって担われるが、それらの硬質なサウンドが緊張感を生み出し、ダニ・グルジェル自身の歌唱の印象も従来のリラックスしたイメージから一変。この挑戦的なプロジェクトの充実ぶりを物語る。
思索的な前半部から、前衛表現の中間部、そして壮大なラストへと続く構成美の(4)「Loop of Water」はティモ・フォルブレヒト作。
マーティン・ファブリキウス作曲の(8)「For the Greta Good」は環境活動家グレタ・トゥーンベリに捧げられたもの。
レコーディング当初はバンド名の由来にもなっている通り、異なる音楽的背景を持つミュージシャンの初セッションには混乱も生じたという。それでもそうした“違い”をお互いがリスペクトしつつ、対等な立場で意見を交換しあい、音楽という世界共通の言語を通じて発露させたこの作品は限りなく創造的だ。
Dani Gurgel – vocals
Thiago Rabello – drums
Timo Vollbrecht – saxophone
Martin Fabricius – vibraphone
Tal Arditi – guitar
Frederico Heliodoro – bass