ライアン・コーハン、7年ぶり新譜『Originations』
世界中のリズムや音階を取り入れた独自のジャズを創り続けている米国シカゴ出身のピアニスト/作曲家、ライアン・コーハン(Ryan Cohan)の7年ぶり新譜『Originations』。ピアノ、ベース、ドラムス、中東の打楽器、管楽器、さらには弦楽四重奏という11人編成で緻密に演奏される魅惑の音楽だ。
ライアン・コーハンはこれまでも『African Flowers』(2010年)など民族的なテーマに焦点を当てた作品を生み出してきたが、今作は彼の父方のルーツでもある中東の音楽にぐっとフォーカスされたジャズが展開される。
美しいチェロの音色で幕を開ける(1)「The Hours Before Dawn」から、米国人のピアノにしては本格的にオリエンタルな香りが漂いつつも純粋な中東音楽でもなく、クラシックの成分も多い一種独特の雰囲気に包まれる。途中からリク(アラブタンバリン)やドラム、サックスやフルートも加わっていくドラマティックな演奏は9分近くにおよぶが、多人数編成や多層的な楽曲展開のため聴き飽きることはない。
一転してスリリングな展開の(2)「Imaginary Lines」や本作のハイライトであろう(4)「Sabra」、そして12分半の大作(6)「Essence」まで、中東音楽とクラシック、ジャズの三位一体といった一貫したテーマで進行し、まとまりがありながらも他にない唯一無二の音楽という点でとても興味をそそられるアルバムである。
ヨルダンをルーツに持つピアニスト
ライアン・コーハンは1971年生まれ。中東の国ヨルダンの出身の父親、そして音楽教師でありクラシックのピアニストの母親という家庭環境で育ち、幼少期からヴァイオリンやピアノを教育を受けてきた。デビューアルバムは『Real World』(1996年)をシカゴ交響楽団のメンバーと録音、その後もスタジオミュージシャンや映画音楽の制作、学生向けのクリニックなどの仕事をこなす傍ら、寡作ではあるものの定期的に自身のリーダー作もリリースしており、今作『Originations』は通算6枚目の作品となっている。
Ryan Cohan – piano
James Cammack – bass
Michael Raynor – drums
John Wojciechowski – flute, alto flute, clarinet, tenor saxophone
Geof Bradfield – bass clarinet, soprano saxophone
Tito Carrillo – trumpet, flugelhorn
Omar Musfi – riqq, frame drum, dumbek
KAIA String Quartet :
Victoria Moreira – violin
Naomi Culp – violin
Amanda Grimm – viola
Hope DeCelle – cello