サウスロンドンの新鋭オスカー・ジェローム、素晴らしいデビュー作
ロンドンの新鋭SSW/ギタリスト、オスカー・ジェローム(Oscar Jarome)のデビューアルバム『Breathe Deep』は、R&Bやヒップホップ、ジャズがほどよい塩梅にブレンドされた、どこか懐かしさもある良作だった。今やロンドンの音楽シーンが世界に誇るアフロビートのバンド、Kokorokoのメンバーでもある彼の挨拶代わりともなる個人名義の最初の作品としては想像以上に素晴らしいアルバムだと思う。
リズムや低音が強調されたサウンドは十二分にダンサブルなこの作品。ギターとヴォーカルが中心に据えられながら、リズムの強さもあり、この夏どこかにGo Toするときに車中で流すにはなかなか良いのではないだろうか。
多分、現在の混乱を極める社会と政治の中で私たちに必要なのは、諦めではなくアルバムタイトルにもあるように深呼吸(Breathe Deep)なのだ。
ゲストは新譜『Lianne La Havas』をリリースしたばかりの今をときめくリアン・ラ・ハヴァス(Lianne La Havas)が(9)「Timeless」に、さらに(4)「Your Saint」にはラッパーのブラザー・ポートレイト(Brother Portrait)が参加している。
自然体のオスカー・ジェロームの魅力
オスカー・ジェロームにジャンルの壁はない。
父親の支援を受け8歳の頃にクラシックギターを始めたが、10代の頃には他の多くの若者と同様にガレージでロックを練習し近隣住民を悩ませた。
ジョージ・ベンソン(George Benson)やウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)に夢中になったのはジャズ愛好家の父親のせいだ。
さらに彼は音楽オタクが歩む必然の道を踏襲しアリ・ファルカ・トゥーレ(Ali Farka Touré)やフェラ・クティ(Fela Kuti)といったアフリカのミュージシャンからも影響を受けた。
オスカー・ジェロームは今作『Breathe Deep』でこうした体験を器用にまとめてみせてきたが、まだ自己の収まるべきアイデンティティを模索する中途のようにも聴こえる。ヴォーカルの力は確かに分かりやすい。だが、彼のギターはヴォーカルに比べるとまだまだ語るには不十分な印象も受ける((8)「Fkn Happy Days ‘N’ That」のようなインスト曲は印象に残りにくい…)。
だが、その“青さ”もまた彼の今しかない絶対的な魅力のひとつだ。
オスカー・ジェロームの音楽がどこか懐かしくも魅力的に感じるのは、彼自身の“青さ”と、ジャズ、ファンク、ソウル、R&B、ブルース、ヒップホップ、アフロビート、ロックといった雑多な基礎の上に築かれた蜃気楼のような危うさを孕んだ表現に依るものなのかもしれない。