現代社会の行く末を視る。ブラジリアン・ミクスチャー最強バンド、BaianaSystem 圧巻の新譜

BaianaSystem - O Mundo Dá Voltas

BaianaSystem、不安定な現代社会に向けて放つ力強い音楽

ブラジルの人気アフロロック・バンド、バイアーナシステム(BaianaSystem)の2025年新譜『O Mundo Dá Voltas』。2025年も始まったばかりだが、早くも年間ベストの候補となりそうな凄まじいクオリティの作品だ。彼らにとって5枚目のアルバムは、ブラジル音楽やレゲエ、ヒップホップを中軸としたこれまでの路線を踏襲しつつ、さらにアフリカやカリブ海、ポルトガル新世代の色が濃くなり、その表現は急速に混ざり合うグローバル社会の中での存在感を増している。

プロデュースはブラジリアン・ヒップホップの数多くの作品に関与してきたダニエル・ガンジャマン(Daniel Ganjaman)を迎え、今作には多くの素晴らしいゲストが参加。ブラジル文化大臣も務めたMPB重鎮ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)、1970年代を代表するSSWデュオのアントニオ・カルロス&ジョカフィ(Antônio Carlos & Jocafi)といった大ベテランから、セウ・ジョルジ(Seu Jorge)、エミシーダ(Emicida)などブラジルを代表する個性派、アニッタ(Anitta)やアリス・カルヴァーリョ(Alice Carvalho)といった若手のヒロイン、さらには米国の女性歌手キャンディス・リンゼイ(Kandace Lindsey)、チリ出身の女性SSWクラウディア・マンソ(Claudia Manzo)、カーボベルデ系ポルトガル人男性歌手ディノ・ディサンティアゴ(Dino d’Santiago)といった面々の参加は目も眩むほどの豪華さだ。

ディノ・ディサンティアゴ、アントニオ・カルロス&ジョカフィをフィーチュアした(1)「Batukerê」

「O Mundo Dá Voltas」(世界は回る)と題された今作のテーマは、ブラジルとカリブ海の黒人および先住民族が関わる社会問題を中心に展開する。(5)「Porta-Retrato da Família Brasileira」の歌詞で繰り返される“ラディーナ・アメフリカ”(Ladina Améfrica)とは、ラテンアメリカの黒人女性の視点から、米国帝国主義とブラジルの植民地主義を批判したミナス・ジェライス州出身の人類学者レリア・ゴンザレス(Lélia Gonzalez, 1935 – 1994)による造語である。

楽観的に未来を見据えたBaianaSystemの3rdアルバム『O Futuro Não Demora』(2019年)から、コロナ禍での陰鬱なムードを反映した前作『OXEAXEEXU』(2021年)を経ての、彼らの達観に至った心情の変化も読み取れる。世界の情勢は揺らぐ量子のように不安定で予測がつかないが、その中で人々は自らを安定させられる場所を必死に探しているのだ。アルバムに収められた多くの声とサウンドは足掻きのようだ。どんな時代であっても、人々は生きることに執着することが自然なのだ。

米国の女性シンガー、キャンディス・リンゼイの歌唱と、ブラジルを代表するラッパー、エミシーダのラップが印象的な(2)「A Laje」

BaianaSystem 略歴

バイアーナシステムは1940年代にバイーア州サルヴァドールで生まれた弦楽器「ギターハ・バイアーナ」(guitarra baiana)の新たなサウンドの可能性を切り拓くことを掲げ、ギターハ・バイアーナ奏者のホベルト・バレット(Roberto Barreto)とヴォーカルのフッソ・パッサプッソ(Russo Passapusso)を中心に2009年に結成された。バンド名は「ギターハ・バイアーナ」とジャマイカで生まれ普及した野外ダンスパーティーの音響設備およびそのクルーを指す「サウンド・システム」を組み合わせたもので、レゲエやダブ、サンバ、アフォシェ、イジェシャ、ヒップホップなどの多彩な音楽文化のミクスチャーを特長とする彼らの音楽性をよく表している。

ライヴ・バンドとしての人気も高く、VJによるアーティスティックかつハイセンスなヴィジュアル演出にも定評がある。こ2013年には来日しフジロック・フェスティバルにも出演し話題となった。

関連記事

BaianaSystem - O Mundo Dá Voltas
Follow Música Terra