カミーユ・ベルトー、新しい姿を見せた新譜『Le Tigre』
1本のYouTube動画からデビューに漕ぎ着けたフランスのジャズシンガー、カミーユ・ベルトー(Camille Bertault)のサードアルバム『Le Tigre』がリリースされた。
今作も埋もれていた稀代のジャズヴォーカリストの才能を改めて感じさせる快作で、彼女の様々な音楽ジャンルへの関心が表出した一枚になっている。
(1)「Berceuse de la 54ème rue」はブラジルのギタリスト、ディエゴ・フィゲイレド「Diego Figueiredo」との共作で、収録曲もヴォーカルとギターのデュオで演奏される。曲の響きは完全にブラジリアンだが、ふわふわとしたフランス語の歌詞が絶妙なニュアンスを伝え、非常に美しい仕上がりだ。この曲は14曲でもポルトガル語バージョンが歌われている(曲としてはこちらの方がしっくりくる)。
楽曲の多くはカミーユ・ベルトーの自作曲か、音楽的パートナーとしてクレジットされている米国のトランペッター、マイケル・レオンハート(Michael Leonhart)とカミーユとの共作曲が多い。
珍しいところではショパンの(11)「Prélude(前奏曲第4番)」のカヴァーも。
ダンスミュージックを意識したような楽曲(3)「Todolist」や(13)「Le tube」など、超絶技巧のジャズ・ヴォーカリストという従来のイメージからの脱却を図っているのか、これまでの2作品より随分とポップな印象も受ける今作。彼女の代名詞である高速スキャットも目立たない。もしかしたらこの作品はカミーユ・ベルトーという稀代のヴォーカリストの新たな出発点なのかもしれない。
カミーユ・ベルトー、現代のシンデレラ
カミーユ・ベルトーは1986年生まれ。
2015年のある日、YouTubeにコルトレーンの「Giant Steps」のソロをスキャットで歌った自撮り動画をアップしたところ、その柔軟で完璧な歌唱がFacebookなどでも拡散され話題に。Sunnyside Records の創立者フランソワ・ザラカインの耳にも入り、デビューが決まったという現代のシンデレラ・ストーリーを持つ。
パッと出のスターのように思われる彼女だが、やはり音楽の確かなバックグランドはあったようだ。父親はサウンドエンジニアで、幼少時から音楽に囲まれて育ち、パリ高等音楽学校でピアノを専攻、さらには演劇などの経験も積んでいる。
そうした経験が血肉となり、YouTubeという彼女のシンデレラ・ストーリーが生まれた。