サンパウロ出身のベーシスト、イゴール・ピメンタ
ブラジルのベーシスト/作曲家、イゴール・ピメンタ(Igor Pimenta)の初ソロ作『Sumidouro』は、アンドレ・メマーリ、アントニオ・ロウレイロ、タチアナ・パーハ、サロマォン・ソアレス など豪華なメンバーが参加し、まさに“ブラジルの現代ジャズ”が詰まっている。
サンパウロ出身の彼は、ミナス・ジェライスの先駆者的アーティストたち(ミルトン・ナシメントやロー・ボルジェス、トニーニョ・オルタら)のメロディーやハーモニーに強く影響されてきたという。
今作でもマルシオ・ボルジェス&ミルトン・ナシメント作の(4)「A Sede do Peixe」をカヴァーしているのは、そうした“ミナス派”の偉大な音楽家たちへ捧げるトリビュートだ。
他に強く影響されたアーティストとしてパット・メセニー・グループやエグベルト・ジスモンチの名を挙げているが、イングランドのプログレバンド、ジェントル・ジャイアント(Gentle Giant)の(9)「Three Friends」のカヴァーや、ブラジリアン・クラシックの巨匠ヴィラ・ロボスを彷彿させる(3)「Brasilina, Chico e Zeize」など、このアルバムには様々なジャンルの音楽を吸収してきた彼の音楽観のすべてが詰まっている。
多彩な編成で変化に富む豊かな音楽を披露
イゴール・ピメンタのベースの他、サロマォン・ソアレス(Salomão Soares)のピアノ、ネイマール・ヂアス(Neymar Dias)のギター、エドゥ・ナリ(Edu Nali)のドラムスというカルテットを軸に、楽曲ごとに編成を自在に変え、魅力的な世界観を構築する。
(1)「Lamentos de Mãe d’Água」にはブラジルを代表する歌手タチアナ・パーハ(Tatiana Parra)が参加。新世代のピアニスト、サロマォン・ソアレス(Salomão Soares)の長めの熱いソロにも注目。
(2)「Semillas al Viento」では現在のブラジルを代表するピアノ奏者アンドレ・メマーリ(André Mehmari)、独自の音楽的世界観が日本でも人気のマルチ奏者アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)が参加。ゲスト参加のこの二人の色に染まったこの曲は本作のハイライトのひとつだ。他の曲でピアノを弾いているサロマォン・ソアレスと、この曲でのアンドレ・メマーリの個性の違いも明らかで、こうして1枚の作品で聴き比べを楽しめるのも良い。
(5)「Insieme」はイゴール・ピメンタによるソロ演奏。包み込むように演奏される温かみのある太い低音は、コントラバスの魅力を改めて気づかせてくれる。
(6)「Procissão das Velas」はこの手の作品には珍しく、ネイマール・ヂアス(Neymar Dias)による少し歪ませたエレクトリック・ギターが登場。ヴィブラフォンの美しく舞うようなパッセージも素敵だ。この曲を含むいくつかでは、イゴール・ピメンタはフレットレスのエレキベースを弾いている。
イゴール・ピメンタは2015年には本作にも参加しているギタリストのヴィニシウス・ゴメスらとクヴァール(Kvar)というバンドを率い、セルフタイトル作『Kvar』を発表している。こちらも上質なブラジリアン・ジャズとして併せておすすめしたい。
Igor Pimenta – acoustic bass, fretless electric bass
Edu Nali – drums
Neymar Dias – viola caipira, guitar
Vinícius Gomes – guitar
Salomão Soares – piano
André Mehmari – piano, synthesizers
André Juarez – vibraphone
Jussan Cluxnei – clarinet
Alexandre Silvério – fagotto
Ricardo Braga – percussion
Vana Bock – cello
Daniel Grajew – accordion
Toninho Ferragutti – accordion
Rafa Castro – accordion, vocal
Rafael Altério – vocal
Tatiana Parra – vocal
Antonio Loureiro – vocal