充実するミナスの音楽シーンの象徴的一枚『Vata』
ブラジル・ミナスから新たな傑作が届いた。
ミナスジェライスのSSW、マルコス・ルファート(Marcos Ruffato)が同郷の数多くの才能を集め制作したこのデビュー作『Vata』は、間違いなく現代ミナス音楽を代表する一枚になるだろう。
美しいガットギターとピアノで始まる(1)「O Azul」。間も無くマルコス・ルファートの温かみのある声と、ベロ・オリゾンチの女性ヴォーカル・トリオ、アマラント(Amaranto)の美しいコーラスが溶け込んでくる瞬間、これは名盤と確信した。トニーニョ・オルタを思わせる美しいコード進行とメロディは彩り豊かで、ピアノにベテランのクリストヴァン・バストス(Cristóvão Bastos)、リズム隊にはドラムスのユリ・ヴェラスコ(Yuri Vellasco)、ベースのカミラ・ホーシャ(Camila Rocha)といった注目の若手が参加したバンドアンサンブルも素晴らしい。
(2)「Carta ao Patriota」には注目のギタリスト、フェリピ・ヴィラス・ボアス(Felipe Vilas Boas)がエレクトリック・ギターで、さらには今年始めにリリースされたデビュー作『Piramba』が話題となった鍵盤奏者のダヴィ・フォンセカ(Davi Fonseca)がローズピアノで参加。とろけるようなサウンドを奏でている。
続く(3)「Peão-Rei」はパンデイロの強烈なビートとアコーディオンが特徴的なブラジルらしい曲で、ヴォーカルのエフェクト処理も含めて往年のレニーニ&マルコス・スザーノの名コンビを思い起こさせる。
(4)「O Passo Faz o Chão」にはイレーニ・ベルタシーニ(Irene Bertachini)がヴォーカルでゲスト参加。様々なブラジルのリズムが混ざり合い、圧巻の展開をみせる。
(5)「Frevo pra Acordar」にはなんと、ミナス音楽の雄トニーニョ・オルタ(Toninho Horta)が参加!澄んだ青空のような美声のバルバラ・バルセロス(Barbara Barcellos)とともに、爽快なジャズサンバを聴かせてくれる。
マイラ・マンガ(Maíra Manga)がヴォーカルを務める(6)「Pescador」も心に染みる名バラードだ。ヘベッカ・クレインマン(Rebecca Kleinman)のフルートや、ナス・ロドリゲス(Nath Rodrigues)のヴァイオリンもとても素晴らしい。
ミナスのSSW、レオポルヂーナ(Leopoldina)がヴォーカルを担当する(7)「Desanuvio」は、浜辺に寄せては返す波の音を背景にアカペラで歌われる小品で、これもまた美しい。
ミナスの注目のアーティストが多数参加、確約された名盤
とても全曲を紹介しきれないが、他にもミナスのベテランSSWセルジオ・サントス(Sergio Santos)、パンデイロ奏者のトゥーリオ・アラウージョ(Túlio Araújo)、ミストゥラーダ・オルケストラの中心人物として活躍したSSWハファエル・マセード(Rafael Macedo)、チリ出身・ブラジル在住歌手のクラウジア・マンゾ(Claudia Manzo)、ミナスのバンド、グラヴェオーラ(Graveola)の一員ジョゼ・ルイス・ブラガ(José Luis Braga)など、現行のミナスの音楽シーンのオールスター的な面子が勢揃いしている。
アコースティック楽器でのアンサンブルを基調としながら、自然の環境音も効果的に取り入れた豊かなサウンドデザインも素晴らしい。
まだこんな素晴らしい才能がミナスに居たとは…そんな大きな喜びと感動がある作品だ。
マルコス・ルファート。1983年生まれのシンガーソングライター
マルコス・ルファートは1983年、ブラジル・ミナスジェライス州ウベラバ(Uberaba)生まれの作曲家/歌手/ギター/バンドリン奏者。母親はピアニスト、父親はギタリストという家庭で、伝統音楽やロック、ジャズなど様々な音楽に親しんできた。2002年からミナス州立大学(UFMG)に通うために州都ベロ・オリゾンチに移住。大学では音楽ではなく心理学の専攻だったが、この時期にサンバやショーロを含む様々な音楽を習得した。
2016年には友人の勧めでBDMGインストゥルメンタル・アワードに応募、祖父から受け継いだバンドリンを弾き、見事に優勝を勝ち取る。
その後しばらく器楽曲のバンドを組んで活動した後、クラウドファンディングで資金を集め今作を制作・リリースした。
(2020/11/28追記)国内盤CDが発売!ライナーノーツを執筆しました
橋本徹さん主宰のアプレミディ・レコーズより、マルコス・ルファート『Vata』国内盤CDがリリースされました!私はそのライナーノーツを執筆させていただいています。参加アーティストを眺めるだけでも楽しいこの作品、ぜひフィジカルで!
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