70年代からやって来た風変わりなバンド
イスラエルの都市ハイファに、70年代からタイムスリップしてきたような不思議なバンドがいる。彼らの名はウジ・ナボン&アクウェインタンセズ(Uzi Navon & Acquaintances, ヘブライ語:עוזי נבון ומכרים)。
2010年にセルフタイトル・アルバム『Uzi Navon & Acquaintances』でデビュー(バンドリーダーのウジ・ナボン曰く、1970年にリリースされたが、忘れられており、“今”出てきた作品)、そのサウンドは世界に衝撃を与えた。
それから10年、彼らはまた、“50年間忘れられていた”新たな作品をリリースしてきた。タイトルは『בזמנו』、英語でAt the Time、つまり“当時の”を意味する。
彼らが愛する70年代当時のロック、ファンクそのものの音が全19トラック。とても2020年のアルバムとは思えない、現在進行形のレア・グルーヴとでも呼びたくなる狂気すら感じる圧巻の内容。サイケに煙るエレクトリック・ギターも、土臭いドラムの音も、音割れ気味のローファイなヴォーカルも、全てが計算し尽くされたもの。
アルバムはどこから聴いてもかっこいい。
入れ替わる男女ヴォーカルや重厚なコーラス、ブラスやオルガンの絢爛なサウンドが魅力的なライヴ風の(2)「?עד מתי」、ドープなファンク・グルーヴが気持ちいい(4)「כבר לא לבדה」、オルガンやギターが強烈なサイケロック(7)「בלי משחקים」など、一貫した独特の世界観で時空を歪める。
混乱する時の流れを表すように自在にテンポを変える(8)「תיק תק」(英訳:Tick Tock)などは象徴的だ。美しく完璧な時代錯誤。古くて斬新で、最高にクール。
ハイファからのセンセーション
ウジ・ナボン──作曲者のクレジットでヨナタン・レヴィン(Yonatan Levin, יונתן לוין)という本名を知ることができる──はこのバンドのサウンドをイスラエルの国民的歌手アリク・アインシュタイン(Arik Einstein)とファンクの帝王ジェームス・ブラウン(James Brown)の混在物として定義している。
バンドは最大で12人という大編成。
彼らのバイオグラフィーには2010年のデビュー作リリースに際し、このような物語が綴られている:
ウジ・ナボンは6歳からピアノを弾きはじめ、10代で海外の「ロックンロール」「ガレージ」「リズム&ブルース」に関心を寄せ、曲を書きはじめた。当時イスラエル国内では珍しかったシンセサイザーも取り入れ、多くの“知人”たちとセッションを重ね、次第にバンドを形にしていき、1970年に最初のアルバム『Uzi Navon & Acquaintances』をリリース。瞬く間に大人気となり“ハイファからのセンセーション”の異名をとり、「ザック」という化粧品と製薬の会社のコマーシャルに起用されるまでになるが、すぐに同国が深刻な不況に見舞われ多くの失業者を出し、1970年代後半にはとどめを刺すようにザック社がアスベスト問題を引き起こすと、同社の顔であったウジ・ナボン&アクウェインタンセズもスポットライトに戻ることはできず、いつの間にか霧散した。
それから時を経た2000年代後半、かつてバンドと親しかったある人物が実家の荷物を整理していた際に彼らの忘れ去られた古いレコードを偶然見つけた。懐かしさのあまり、彼は“知人たち(バンドメンバー)”に連絡を試みたが、その誰もがこのバンドのことを忘れていた。
諦めきれない彼はメンバーの許可を得て「Myspace」にウジ・ナボン&アクウェインタンセズのページを開設。徐々に露出が増え、デビュー作の“再リリース”に至った──。
ハイファに空いた時空の穴、ウジ・ナボンと知人たち。
音楽の遺産へと続く時の扉へ、ようこそ!
2021/6/4追記
ウジ・ナボンの新たなレア映像が発掘され、YouTubeに2021年6月1日に公開された。
オーソドックスなピアノトリオ編成で、ウジ・ナボンはピアノでの弾き語りを披露する約40分間のライヴ映像だ。
途中から女性ヴォーカリストのアネット(Anet)も加わっている。