“アダムとイヴ”以前の物語。最初の女、リリスをテーマに描く優しくも鋭利な叙事詩

Maria Rodés - Lilith

カタルーニャのSSW、マリア・ロデス新譜『Lilith』

スペイン・バルセロナの歌手、マリア・ロデス(Maria Rodés)の2020年新譜『Lilith』。可憐な歌声に、フォーキーでありながらも、かなり実験的なサウンドの組み合わせが新鮮。

タイトルの『リリス』とは、旧約聖書(『創世記』1章27節)において神が最初につくった人間の女の名で、そのとき同時につくられた男がアダムだ。リリスは自立した女で、アダムと対等の存在──つまり、最初の男女同権論者だった。
やがてリリスはアダムの元を離れ、エデンの園を去った。ぼっちになったアダムを哀れんだ神が、彼の肋骨から従順な女イヴをつくった。「アダムとイヴ」のその後の話は、聖書に興味がない人にもよく知られているが、“最初の女”リリスについてはあまり知られていないのではないだろうか。

マリア・ロデスはこのアルバムで、社会、文化、芸術における女性の役割を誇り高く歌う。曲調はシンプルだが、輪郭のはっきりした確かな意思が感じられる。

前衛的なサウンドが際立つ(1)「A la Luna Venidera」から、昔ながらの三拍子や四拍子でコード進行もシンプルな楽曲構成ながら、それを魅力的に映す非凡なセンスに聴き惚れてしまう。現代では女性解放運動の象徴となっているリリスを据えたテーマはそれなりに社会的で重いが、そんなことを意識しなくても心地よく聴けるアーティスティックなスペイン語ポップスとして重宝する作品だ。

(1)「A la Luna Venidera」
タイトルは「来るべき月へ」の意味。
(4)「Pelo Rojo」
タイトルは「赤毛」を意味する。

マリア・ロデス(Maria Rodés)は1986年、スペイン・バルセロナ出身のシンガーソングライター。2009年に『Sin Técnica』でデビューし、実験的なサウンドで多方面から高評価を得た。2014年作『María Canta Copla』ではスペインの伝統的な歌曲のジャンルであるコプラの往年の名曲を取り上げ話題となっている。

Maria Rodés - Lilith
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