ジェンマ・ウメット、待望の3rdアルバム『Màtria』
ここ最近でリリースを最も楽しみにしていたアルバムがついにリリースされた。
スペイン・カタルーニャ州のSSW、ジェンマ・ウメット(Gemma Humet)。
2017年作『Encara』でその圧倒的な歌声の虜になり、Instagramのアカウントをフォローしたりしてその後彼女の動向をずっと追いかけていた。出産という一大イベントもあり、しばらく音楽活動を休止していたが、ついに3年ぶりの新作がリリースされるに至った。待望の新作のタイトルは『Màtria』。再び彼女の素晴らしい声を聴ける喜び。
サウンドはこれまでのアコースティック/オーガニックな路線を継承しつつ、適度なエレクトロニカも取り入れ、彼女の音楽としては新鮮な音になっている。
全曲がジェンマ・ウメットの作曲。詩は4曲がオリジナル、他6曲はほかの詩人によって書かれたものを採用している。
(1)「Damunt un cel de fil」ではカタルーニャの女性詩人、マリア・メルセー・マルサル(Maria-Mercè Marçal, 1952 – 1998)の詩をフィーチュア。物語の始まりを予感させる素朴で美しいトラック。
(2)「Ales al vent」は彼女の真骨頂ともいえるカタルーニャの伝統的な歌唱法とポップスの親しみやすさが融合した素晴らしい曲で、特徴的な彼女の“声”の魅力が発揮された楽曲といえるだろう。
(4)「Lila clar」も親しみやすさのある良曲。この曲はカタルーニャの男性詩人/教授であるロク・カサグラン(Roc Casagran, 1980 – )の同名の詩を取り入れたもので、非女性の視点からみたフェミニズム運動の象徴として本作のテーマの根底に流れる深く強い想いを代弁させる。
本作から最初にMVで公開された(6)「Interpreta’m」では女性詩人ミレイア・カラフェル(Mireia Calafell, 1980 – )の詩が歌われる。おそろしく巧みなヴィブラートにジェンマ・ウメットという歌手としての深みを感じさせる。
(9)「Solitud」はシンガーソングライターだった叔父、ジョアン・バプティスタ・ウメット(Joan Baptista Humet, 1950 – 2008)が書いた歌詞にジェンマが曲をつけたもの。
2015年のファースト・アルバム『Si canto enrere』から少しずつサウンドの作風を変えつつも、常にその中心で驚くべき存在感を放ち続けたジェンマ・ウメットの“声”。
今作のテーマは“女性と母性、そして自由と孤独”。
ラストの(10)「Mare」には叙情的なジェンマ・ウメットによるピアノとヴォーカルの背景に騒がしい子供や赤ちゃんの声が入るが、これこそが彼女が今その目で見ている世界であり、命という幸福の実感なのだろうと思う。
ジェンマ・ウメットはこのサード・アルバムで、現代最高峰のシンガーの地位を確固たるものにした。