鬼才ネルス・クライン、ブルーノート3作目『Share The Wealth』
米国のギタリスト/作曲家、ネルス・クライン(Nels Cline)がブルーノート・レコードから自身3作目となるアルバム『Share The Wealth』を、ネルス・クライン・シンガーズ(The Nels Cline Singers)名義でリリースした。
アルバムはカエターノ・ヴェローゾ作曲の(1)「Segunda」で幕を開ける。原曲はガル・コスタの2011年作『Recanto』に収録されていた曲で、ワンコードで進行する原曲の雰囲気を踏襲しているが、ネルス・クラインのエレクトリック・ギターとスケーリック(Skerik)によるサックス、ブライアン・マルセラ(Brian Mersella)によるローズピアノはより禍々しい雰囲気を放ち、
重々しく淡々と同じリズムを刻むベースやドラムスとの好対照を浮き彫りにする。
「Segunda」のMVにはブラジル・リオデジャネイロ郊外のファベーラ (貧民街)で撮影された映像が使われている。もともとはブラジルの黒人奴隷制が残した遺産について歌われた曲だが、それは米国で巻き起こったBlack Lives Matter運動にも通じるものが感じられる。
続く(2)「Beam/Spiral」はポストロックの色合いを帯びており、リフレインは螺旋を描きながら徐々に上昇していく。
熱風のごとくフリーな展開を見せる(4)「Stump the Panel」も良い。この曲はリズム隊が暴れ回っており、ドラムのスコット・アメンドラ(Scott Amendola)、パンデイロも叩くブラジル人パーカッション奏者シロ・バプティスタ(Cyro Baptista)、ベースのトレヴァー・ダン(Trevor Dunn)各々の演奏にも気合いが込もる。
進化を止めないギタリスト、ネルス・クライン
オルタナティヴ・ロックバンド、ウィルコ(Wilco)でも知られる本作のリーダー、ネルス・クライン(Nels Cline)は1956年生まれの大ベテランだ。
12際の頃、双子の兄弟アレックス・クラインがドラムを始めた頃に一緒にギターを弾き始め、ともに音楽に打ち込み、80年代頃からジャズ、パンク、オルタナティヴ・ロック界隈でその名を馳せてきた。ギタリストになることを決定づけたのはジミ・ヘンドリックスの曲「Manic Depression」だったというが、今でも音作り、演奏、作曲面の全てにジミヘンからの影響が感じられる。
2011年にはローリングストーン誌によって史上もっとも偉大なギタリストの第82位に選出されている。
妻はチボ・マット(Cibo Matto)での活動で知られる本田ゆかで、結婚式は日本で挙げられたようだ。
Nels Cline – guitar
Scott Amendola – drums
Skerik – saxophone
Trevor Dunn – bass
Brian Mersella – piano, keyboards
Cyro Baptista – percussion