イタリアの社会派鬼才音楽家、ダニエレ・セーペ、コロナ禍の音楽
イタリアのサックス奏者/作曲家ダニエレ・セーペ(Daniele Sepe)の新譜タイトルはずばり『Lockdown, Vol. 1』。常に鋭い批評性をもって驚くべき音楽を作り続けてきた真の鬼才音楽家は、やはり時代性を反映した作品を放ってきた。
(2)「Indagine su un cittadino al di sopra di ogni sospetto」はイタリアが生んだ偉大な作曲家、エンニオ・モリコーネの曲で、1970年の映画『殺人捜査』のテーマ曲だ。2020年7月のモリコーネ逝去のニュースは世界中で大きく報じられたこともまだ記憶に新しい。
(3)「Marcia di Esculapio」は同じくイタリアの作曲家、ピエロ・ピッコーニ(Piero Picconi)で、南米ブラジルのサンバ・ジャズを取り入れた清涼感のあるリズムが心地良い。
(4)「Sakura」はもちろん、日本古謡「さくら」。
日本の鹿児島市はその風景から“東洋のナポリ”と呼ばれており、ダニエレ・セーぺの出身地ナポリとは古くから交流があった。この曲はナポリと鹿児島市の姉妹都市盟約60周年を記念してアレンジ・録音されたもので、ジャズによる斬新な新解釈が楽しい。
(6)はアルゼンチンのギタリスト/作曲家、アタウアルパ・ユパンキ(Atahualpa Yupanqui)の楽曲で、彼のライヴでは以前より定番レパートリーとなっているもの。本作(Vol. 1)では唯一のヴォーカル曲となっている。
なお、女性歌手エミリア・ザムナーが歌う『Lockdown, Vol.2』はサブスク配信はされておらず、唯一、こちらのクラウドファンディング・サービスを通じて購入することができる。このような社会状況下では、彼のように大手レーベルに所属せずフィジカルCDを流通させることは経済的に非常に困難なためだ。
ダニエレ・セーぺは語っている:
「私たちはできるだけ早く、お互いを近くで見て、一緒にグラスを持って、バクテリアを交換することによって音楽を作ることを望んでいる」
想像力に限界なき、類稀な音楽家
ダニエレ・セーペは1960年イタリア・ナポリ生まれ。当初はフルートを演奏していたが、ジャズに興味をもちサックスに転向している。1975年頃からバンドメンバーやスタジオ・ミュージシャンとして音楽活動を開始。
1989年にアルバム『Malamusica』でソロデビュー、以降ほぼ毎年作品をリリースしているが、音楽性はジャズからイタリアの伝統歌、ロック、ファンク、バルカン音楽、レゲエ、ラップなど相当に雑多。
農業労働者の貧しい一家に生まれ、それ故に彼の楽曲は皮肉や社会的メッセージを含むものが多いが、それでいて怒りのような負の感情は音楽からは伝わって来ず、ひねくれたような明るさがあるのが面白い。
『Viaggi fuori dai paraggi』(1996年)、『Lavorare stanca(限界労働)』(1998年)、『Anime Candide』(2003年)、『Una Banda Di Pezzenti(貧者たちの楽隊)』(2005年)といったアイディアに満ちた傑出した名盤の数々は、今聴いてもその創造性に驚かされる。
Daniele Sepe – saxophone
Paolo Forlini – drums
Tommy De Paola – piano, keyboards
Davide Costagliola – bass
Antonello Iannotta – percussion
Emilia Zamuner – vocal (only Vol. 2)