MPB最高の歌手ガル・コスタ、10人の男性SSWと綴る名曲たち

Gal Costa - Nenhuma Dor

MPB黄金時代の最高の歌手、ガル・コスタ

ボサノヴァやMPBの最盛期の最重要人物のひとり、ガル・コスタ(Gal Costa)。彼女は1945年生まれだから、2021年の今年は76歳になる。

1965年にデビューして以来、ガル・コスタは音楽活動をほとんど途切れさせることなく続けてきた。これは彼女の強い好奇心と音楽への愛の結果だ。彼女にとって音楽は常に生活の一部であり、多くの人々に自らの表現を届ける手段だった。

常に新しい表現に挑戦してきたガル・コスタが新型コロナ禍中に発表した新譜は意外なものだった。
新作に収録されているのは彼女を形作ってきた過去作の名曲の再録音、そして彼女自身が愛してきた音楽のカヴァー。

背景には、こんな事情があるようだ──
コロナ禍の中で、多くの人々がサブスクリプションで音楽を聴くようになったが、それは彼女の過去作の人気を再生回数の数字で証明した。今よりも良かった過去の時代、愛情や希望に満ちた時代の音楽、それが今求められている。不確実なこの時代に彼女がガル・コスタというMPBの歴史の中で最も尊敬される歌手として行うべきことはただ一つ、求められている音楽によって人々を癒すことだった。

ガル・コスタ新譜は全曲異なる男性歌手とのデュエット

ガル・コスタの新作のタイトルは『Nenhuma Dor』

アルバムには若い頃の彼女の歌声に惹かれた人なら聴き入らずにはいられない楽曲が並ぶ。

(1)「Avarandado」は『Domingo』(1967年)収録の曲で、原曲は気怠さの漂う曲調だったが、ここではホドリゴ・アマランチ(Rodrigo Amarante)を迎えマルシャのリズムで軽快に演奏。

ドリヴァル・カイミ作の(2)「Só Louco」はシウヴァ(Silva)と。

(6)「Juventude Transviada」は近年ますます渋さを増すセウ・ジョルジ(Seu Jorge)と。

(7)「Baby」は2017年のデビュー作『Recomeçar』が大きな話題となったチン・ベルナルデス(Tim Bernardes)と。

(8)「Coração Vagabundo」は近年話題の若きSSW、フーベル(Rubel)とのデュオで。

ボブ・ディランの「It’s All Over Now, Baby Blue」をポルトガル語でカヴァーした(9)「Negro Amor」はウルグアイのアカデミー受賞シンガー、ホルヘ・ドレクスレル(Jorge Drexler)が歌う。

このように、共演相手は今旬の素晴らしいミュージシャンばかりだ。
名曲の数々が瑞々しさとサウダージを伴って次々と現れるが、ガル・コスタの声は相も変わらず魅力的で、そこに老いは一切感じない。

痛みのない道を歩まなければならない

アルバムタイトルは1967年リリースのカエターノ・ヴェローゾとの名盤『Domingo』で初めて発表された曲の名前で、詩人トルクァート・ネト(Torquato Neto)による“痛みのない道をしっかりと歩んでいかなければならない”という詩が強い印象を残すものだ。カエターノやガル・コスタの友人であったトルクァート・ネトは軍事政権下のブラジルで孤独に悩み、アルコール依存症となり1972年に自ら命を絶っている。

今作ではこの「Nenhuma Dor」をアルバムのラストでカエターノの息子ゼカ・ヴェローゾ(Zeca Velozo)と歌う。確かにこの曲には『Domingo』ではほとんど感じられなかった悲しみが詰まっている。

(8)「Coração Vagabundo」
Gal Costa - Nenhuma Dor
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