カタルーニャ生まれのピアニスト/作曲家、クララ・ペーヤ
スペインの鬼才作曲家/ピアニストのクララ・ペーヤ(Clara Peya)。フェミニストを自称するが、もはや彼女自身は性別を超越した存在のようにも思える。どこか物哀しく、なにかを訴え続けるように響くピアノ。ミュージック・ヴィデオ(MV)では鬼気迫るダンスの表現。それは2021年の新譜『Perifèria』でも変わらない。
多くの女性が幼少時に触れるディズニーやハリウッド映画、そして子供向け絵本が描く“女の子像”が、ずっとクララ・ペーヤを傷つけてきた。女の子は誰かが来るのをじっと待ち、いずれその時が来れば、その誰かの愛によって全ての悩みから解放される──それは嘘だ、とクララは断言する。そしてクララ・ペーヤは、音楽を通じた表現によってこのような社会を変えることができると信じている。
新譜『Perifèria』では男性歌手をフィーチュア
今作『Perifèria』は男性歌手エンリオ(Henrio)を全面的にフィーチュアしており、これまでの彼女の作品の多くは女性が歌っていたから印象もだいぶ異なるものになっている。もし“声”がクララ・ペーヤの想いを代弁する手段なのだとすれば、これまで“女性の声”を通じて表現をしてきた彼女の作品が、“声のない”ソロピアノの前作『Estat de Larva』を経て“男性の声”へと変わったことはとても興味深い。
サウンドは彼女のピアノはこれまで以上にアンビエントになり(前作でも見られたピアノのペダルを踏む音なども生々しく録音されている)、エレクトロニカの比重が増している。
なぜ世の中の歌のほとんどが愛について歌っているのか──この問いに対する彼女の答えは「愛が世界を動かすから」。しかし彼女の歌は前述の多くの古典作品が描くようなロマンチックな側面の愛だけではなく、理性の欠如、所有欲や不快感、絶望、そして社会や政治といった愛が生んだすべての事象について俯瞰し描き出す。クララのピアノと歌い手エンリオの声を通じて表現されるこの歌は、そうしたあらゆる愛を重視する彼女の世界観を見事に表している。
まず圧巻なのは(3)「La Niña(女の子)」。映画のように美しい映像のMVでは、前述のような女性性のステレオタイプが彼女たちにもたらしてきた苦しみと、その解放を強く訴える。
本作唯一の女性がヴォーカルをとる曲が(6)「Mujer frontera(フロンティアの女性)」。スペインの女優/歌手のアルバ・フローレス(Alba Flores)とチリ出身でピノチェトの独裁政権に抵抗しフランスに亡命した両親のもとに生まれたラッパー、アナ・ティジュ(Ana Tijoux)によって、常に挑戦を続けてきた彼女たち自身を表したとも思える“人生のパスポートを持たない女たち”の姿を歌う。
社会が常に変化し従来の価値観が次々と転換されているのと同じように、彼女の音楽もまた従来のジャンルの枠組みには当てはまらないし、これから先もそんなカテゴライズは必要ない。
ただあるのは時の流れだけ。すべては過去からの積み重ねでしかない。
クララ・ペーヤ 略歴
クララ・ペーヤ(Clara Peya)はカタルーニャ州のパラフルゲルというフランス国境に近い街に1986年に生まれた。
カタルーニャ高等音楽院(ESMUC)のクラシックピアノ科を2007年に卒業し、バルセロナの Taller de músics でジャズを学んだ。
2009年に『Declaracions』でデビューし、これまでに8枚のアルバムをリリース。2018年作『Estómac』はカタルーニャ語圏の月刊音楽誌『Enderrock Magazine』によって年間最優秀アルバム賞を受賞。
2019年には音楽のキャリアと社会への影響を認められ、国民文化賞を受賞している。
Clara Peya – piano, synthesizer
Henrio – vocal
Vic Moliner – electric bass, synthesizer
Dídak Fernandez – drums
Guests :
Alba Flores & Ana Tijoux – vocal (6)