“天才”テイラー・アイグスティ、実に11年ぶりの新譜
ジャズとは、進化を続ける音楽だ。
若くしてデビューし、天才と持て囃された米国のピアニスト/作曲家、テイラー・アイグスティ(Taylor Eigsti)による前作『Daylight at Midnight』から実に11年ぶりとなる新譜『Tree Falls』が、その言葉をよく表している。
1984年生まれ。4歳でピアノを始め、すぐに天賦の才を認められたテイラー・アイグスティ。
これまでに数え切れないほどのジャズ・レジェンドたちと共演し、何度かのグラミー賞ノミネートも経験した文字通りの輝かしいキャリアを誇る稀代のピアニストはこの10年弱の間、ツアーに勤しみ、そしてまた交響曲の作曲にも明け暮れてきた。
2018年になってようやく彼が自身の次のリーダー作を制作中であることを公表したが、当初2020年予定とされていたリリースは遅れに遅れ、2021年5月にようやく日の目を見ることになった。
しかしながら、2010年発表の前作と、そこから11年を隔てリリースされた今作を聴き比べてみれば、彼がこの間に音楽家としてどんなことを考え生きてきたかが分かる。
一貫してスタイルを変えない頑固なアーティストも多い中、テイラー・アイグスティの音楽に向き合う姿勢は時代の流れにかろうじてしがみつくどころか、その先端に自ら率先して立とうとしているようにさえ思える。
(1)「Sparky」はいきなり象徴的だ。まさしくここ数年でトレンドになってきた新しいジャズの音がしっかりと消化され反映された圧巻の演奏には舌を巻くしかない。
本作はソロピアノからヴォーカル曲、果ては管弦楽アレンジまでとても彩り豊かだ。
ヴォーカルは前作にも参加していたベッカ・スティーヴンス(Becca Stevens)に、この10年弱の間にサイドマンとして共演したグレッチェン・パーラト(Gretchen Parlato)、それにケイシー・エイブラムス(Casey Abrams)の3人が参加。
表題曲(5)「Tree Falls」などで聴かれる管弦楽のアレンジは彼が取り組んできたラージアンサンブルや交響曲の作編曲の成果の表れでもある。
Taylor Eigsti – piano, keyboards
Becca Stevens – vocal, charango
Casey Abrams – vocal
Gretchen Parlato – vocal
Charles Altura – guitar
David Ginyard – bass
Eric Harland – drums
Ben Wendel – sax, bassoon
Sam Sadigursky – flute, clarinet
Nathan Schram – viola
Emilie-Anne Gendron – violin
Hamilton Berry – cello