南アフリカの新人ピアニスト、Keenan Meyer デビュー
充実する南アフリカのジャズシーンから新星が現れた。
西洋クラシック音楽からの強い影響と同時に、アフリカの音楽的遺産を継承するヨハネスブルグのピアニスト/作曲家、キーナン・メイヤー(Keenan Meyer)のデビュー作『The Alchemy of Living』。
ブラジル・リオデジャネイロの旅行から着想を得たという、爽やかな二管編成で物語の始まりを告げる(1)「Santa Theresa」から、アフリカン・ジャズピアノの美しさが引き立つ(2)「The Mountain」、様々なバンドでの活動やオーケストラもソリストとしても活躍するチェポ・ツォテツィ(Tshepo Tsotetsi)の伸びやかなサックスをフィーチュアしたリードトラック(3)「Komani」など、若さの溢れる瑞々しい音楽が次々と展開される。
(4)「Moonchild」はゲストの女性シンガー、ケオラペツェ・コルワネ(Keorapetse Kolwane)の歌唱による英語のヴォーカル曲で、これまたとても美しいバラードで心が洗われる。
続く(5)「Sederburg Avenue」はダリウォンガ・ツァンゲラ(Daliwonga Tshangela)のチェロとピアノのデュオによる素朴でクラシカルな音。
(6)「Healing」は弦楽四重奏も交えた素晴らしいアフリカン・ジャズで、打楽器のアンサンブルも素晴らしく楽曲も映像的で美しい。これはキーナン・メイヤーがヨーロッパに旅行しベートーヴェンの墓を見たときの経験からインスパイアされており、西洋音楽的な要素と彼自身のルーツの調和による精神の癒しを求めている。
日本語の「生き甲斐」と題された曲も
ちょっと変わったトラックは(8)「Ikigai」。タイトルは日本語で、フルートをフィーチュアした曲調も日本的なペンタトニックを活用している。これは南アフリカの巨匠ピアニスト、アブドゥーラ・イブラヒム(Abdullah Ibrahim)が話していた生き甲斐についての哲学にインスパイアされ、キーナン・メイヤーが自身の人生観に照らし合わせて作曲したものとのことだ。
キーナン・メイヤーは非常に競争が激しいと言われているマンデラ・ローズ奨学金(ネルソン・マンデラとセシル・ローズの名に由来している)を得たエリートで、西洋的な価値観と、アパルトヘイトの撤廃など近年の南アフリカが歩んできた歴史的な転換点について深く学び、それらを精神的な拠り所にもしている。
調べたところによるとマンデラ・ローズ奨学金を得る前には鬱病も患うなどの苦労も経験しているようだが、彼のピアノ演奏やコンポジションはそのような多様な経験から得られる心の器の大きさや素直さが現れており、美しい。
特にゲストシンガー、ゾイ・モディーガ(Zoë Modiga)が南アフリカ先住民族の言語で歌う(11)「Oxamu」など、原風景的で究極的な癒しを感じられるといっても過言ではないように思う。
Keenan Meyer – piano
Viwe Mkizwana – bass
Sphelelo Mazibuko – drums
Sthembiso Bhengu – horn
Tshepo Tsotetsi – saxophone
String ensemble :
Kabelo Motihomi – violin
Stella Mtshali – violin
Tiisetso Mohale – viola
Daliwonga Tshangela – cello
Zoë Modiga – vocal
Keorapetse Kolwane – vocal